『瑞饋(ずいき)御輿』と行く、西之京
(2023年)10月はじめ、北野天満宮瑞饋祭が催され、その行列が西之京の各地を巡行しました。瑞饋祭は、古来西之京の地で行われていた氏子の祭に、明治時代になって神幸祭(神様が氏子地域を巡行する祭)が取り入れられ、現在の形が整ったといいます。還幸祭の4日には、北野神社御旅所で飾られていた瑞饋御輿も地域を巡行し、西之京地域は祭りムード一色となります。巡行終盤の上七軒では、舞妓さんたちも祭りの一行を出迎えますので、瑞饋御輿と一緒に西之京の各地を巡り歩きましょう。
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秋祭りの先陣を切って10月1日から5日間、北野天満宮瑞饋(ずいき)祭が行われた。1日の神幸祭では、獅子を先頭に導山(みちびきやま)・梅鉾・松鉾・花傘などが先導し、三基の鳳輦(ほうれん)を中心にした長い行列が、北野天満宮から南南西約1.2キロ先にある北野神社御旅所まで、氏子地域を巡って神幸する。4日の還幸祭は「おいでまつり」とも呼ばれ、単に天神様が御旅所から本社へ還るというだけでなく、「太宰府でお隠れになった菅原道真公の御霊が神様として北野の地においでになる」という鎮座の由来を回顧し再現する意味を持つといい、行列には神牛の引く御羽車も加わり、御旅所から北野天満宮へ還っていく。この日は御旅所で飾られていた瑞饋御輿も西之京の地域を巡行する。
還幸祭の日、瑞饋御輿は祭りの巡行列より30分早い12時30分に御旅所を出発。上ノ下立売通の天神御旅商店街を回った後、巡行列とは別のルートで地域を巡る。先ずJR嵯峨野線北側の御前通や天神通を通って瑞饋御輿保存会集会所に行く。道中の天神通には、道真公の乳母多治比文子を祀る文子天満宮(旧跡)や、茅葺屋根の長屋門が残り旧御典医の住宅遺構として貴重な奥渓家住宅(京都市指定文化財)などがある。また御前通には、高塀のある本二階の町家として「京都を彩る建物や庭園」に選定された矢守家なども建っていて、歴史的風情が残っている。
瑞饋御輿は、その後旧二条通を通ってJR嵯峨野線をくぐり、嵯峨野線南西側の地域を巡った後、七本松通を上がって上七軒に向かう。上七軒は北野天満宮の東参道に広がるお茶屋街。室町時代に北野天満宮社殿が一部焼失した際、修復の残材を用いて東門前に七軒の茶店を建てたのが始まりという。
午後3時半過ぎ、瑞饋祭の一行が上七軒通に到着すると、お茶屋の前では舞妓さんが出迎えた。その周囲にはカメラマンや観客が大勢押しかけ、花街の祭り風情を撮るチャンスを待っていた。通りでは地元商店会「上七軒匠会」の皆さんが交通整理や警備活動に加わった。色鮮やかな巡行列は、上七軒通を北野天満宮に向かってゆるゆると進み、境内に入っていった。しかし瑞饋御輿は、北野天満宮の境内に入ることなく御旅所へ帰っていった。
瑞饋祭は、道真公が大宰府で彫られた木像を随行のものが持ち帰ってお祀りし、秋の収穫時に野菜や穀物をお供えして感謝を捧げたことが始まりと伝わる。そのお供えが慶長年間(1596~1615)に御輿型の作り物に発展し、現在の瑞饋御輿になったという。
瑞饋御輿は、色鮮やかな蔬菜・穀類・草花で装飾されるのが特徴だ。屋根に赤(唐の芋)と緑(真芋)のズイキを使い,瓔珞(ようらく)には赤ナスや五色トウガラシ,真紅(しんく)は千日紅の花で装飾する。欄間や腰板は毎年趣向を凝らしており,今年は優勝した阪神タイガースのプレートが飾られていた。
御輿を彩る野菜や穀物は、現在も西之京の農家で栽培されている。その年の天候を見計らいながら1ヶ月かけて飾りものを作っているという。しかし、市街化した西之京のどこに農地があるのだろう。Google Earthで探してみると、数は少ないが確かに農地が散在していた。これらの多くは生産緑地だ。
生産緑地地区は、「おおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」とされる市街化区域内で、良好な市街地形成に有効な農地等を都市計画で指定し、都市農地の保全を図る制度であり、その地区内の農地等(生産緑地)は、市街化区域農地が宅地並み課税されるのに対し、軽減措置が講じられる。京都市は、市街地の緑の保全を目的に生産緑地地区を幅広く指定し、市街化区域内の優良農地の保全を図ってきたが、その生産緑地が都市部の伝統文化の継承に役立っていたというわけである。
【参考文献】
・西ノ京瑞饋御輿《京都府祭り・行事調査事業調査報告書 詳細調査編》京都府教育庁指導部文化財保護課編集、京都府教育委員会発行、令和5年3月24日
・北野天満宮瑞饋祭《『京都の祭り・行事―京都市と府下の諸行事』》京都ふるさと伝統行事普及啓発実行委員会編集・発行、令和2年3月31日
・ずいき祭《北野天満宮公式サイト》【https://kitanotenmangu.or.jp/event/】
・中京の年中行事 瑞饋祭《京都市情報館(中京区)》
【https://www.city.kyoto.lg.jp/nakagyo/page/0000304184.html】
・瑞饋(ずいき)祭《京都市歴史的風致維持向上計画(2期)》京都市、令和3年3月
第2章 7 ―千年の都を育む水・土・緑―
【https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/cmsfiles/contents/0000282/282388/2-7.pdf】
・文子天満宮旧址《フィールドミュージアム京都》
【https://www2.city.kyoto.lg.jp/somu/rekishi/fm/ishibumi/html/ka092.html】
・上七軒歌舞会《上七軒歌舞会公式サイト》【https://www.maiko3.com/】
・上七軒匠会《上七軒匠会公式サイト》【https://takumikai.net/】
・矢守家《京都を彩る建物や庭園》
【https://kyoto-irodoru.city.kyoto.lg.jp/kamigyo/yamorike.html】
・奥溪家住宅《京都市情報館》
【https://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/page/0000189307.html】
・生産緑地地区について《京都市情報館》
【https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/page/0000235452.html】
※巡行図は2023年“瑞饋祭”チラシより作成しました