美唄の民俗学【商店編】
私は北海道美唄市出身だが、美唄市はかつては炭鉱産業で栄えたものの国のエネルギー政策の変更によって衰退していった市である。
今はかつての石炭産業の遺構や当時から人気があった美唄焼き鳥に焦点を当てて町おこしを狙っているようだが、それは私にはあまり魅力的に映らない。
それよりも、普通に暮らす市井の人々がどのように暮らしていたのか、あるいは暮らしているのかに興味がある。
最近、美唄でも空き店舗などを活用しておしゃれなお店が開店したなんて話を聞き、しばらくして行ってみると廃業したなんてのはちょいちょいある。
この手の話を聞いて思うのは「そういうことじゃないんじゃないかなぁ」ってことである。
だって、そういうおしゃれなお店なんてJRに乗って35分で着く札幌にいくらでもある。
独自性もなければ、優位性もない。
固定費は低いかもしれんが、そもそも人口が少ないのだから売り上げが経ちにくい上に、商売上のライバルには高齢者も多く、基本的に年金で生計を立てながら半分趣味で商売しているようなお店も多く、価格競争でも勝てない。
では、美唄のような田舎で事業を成功させるにはどうしたらよいだろうか。
やはり「そこにしかない」ものを作り出すしかない。
「そこにしかない」ですぐ思い出したのが、一定以上の年齢の美唄出身者なら割と有名な通称「ハゲのむら」だろう。
簡単に説明すると美唄月形線、だるま旅館の並びにあった「野村商店」のことだ。
かつて、美唄市街地には2つの駄菓子屋、櫻田商店と野村商店があった。
櫻田商店はオーソドックスな駄菓子屋で優しいおじさん、おばさんがいる居心地のいい場所だった。
一方、野村商店は店主がハゲのじいちゃん。
店内は小汚くなんとなくアンダーグラウンドな雰囲気が漂う。
そして、くじがあり、当たると店主が「つおーい!」と言ってくれるのだ!
そのちょっと変わった感じが面白くて、こちらも人気がある遊び場だった。
後年、SNSで「ハゲのむら」について話題にしたところ、知ってるのは男子が多かったのもなんとなくわかる。
当時の小学生男子の会話としては放課後に
「今日どこ行く?」
「ハゲのむらは?」
「いいよ」
みたな感じだった。
美唄のように過疎化が地方でビジネスをやるなら、「ハゲのむら」のような独自性が強いものをやる以外ないのではないか。
おしゃれなお店はいわば正統派ビジネス。
わかりやすい評価軸の中で激しい競争に晒されるので、需要の総数が多い都会でなければ成立させることが難しい。
一方で「ハゲのむら」的なビジネスは、店主のキャラクターと独自の世界観をもった空間があればよい。
このようなビジネスは、刺さる人にはめっちゃ刺さる。
かつては、その刺さる人の人数の少なさから、ビジネスを成立させるのが難しかった側面もあるが、今やインターネットでただみたいな価格で広く訴求することができるようになったので、競争を避け、十分な利益を確保することも可能だろう。
そんなわけで、美唄で事業を起こす人には、是非「2代目ハゲのむら」を目指してもらいたいと思う。