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読書感想文「噛み合わない会話と、ある過去について」
「噛み合わない会話と、ある過去について」
辻村深月/講談社
読書の秋
日本シリーズ真っ最中だけど、スキマ時間に本をどんどん読みます。
「わざわい」「変な家」と、クセの強い本を続けて読んだので、お口直し的なのと思って前知識なく表紙のパステルカラーがやさしそうで選んだこの本。
表紙は柔らかいピンクだけど、よく見るとイラストはたくさんの人が他の人に耳打ちをしている。
読んでみて装丁に納得。
4話収録されていて、どれもとても面白かったけど特に強烈だった2話、「パッとしない子」「早穂とゆかり」。
どちらも、過去に自分がした事が何倍にもなって自分に帰ってくる話。
「パッとしない子」
若くて人気のある小学校の女性教師が、目立たない生徒を傷つけるともなく深く傷つけてしまい、傷つけた本人は全く気づかず自覚がない。
後にスーパーアイドルになったその生徒が撮影で母校に戻り、あなたの言動でいかに自分も家族も傷ついたかと完膚なきまでに教師に彼の傷ついた心の内をぶちまける。
今後、2度と僕のことを見ないでくださいと彼は教師に言う。
しかし彼はスーパーアイドル。マスコミへの露出も多く、見ようと思わなくても見えてしまう。そのたびに教師は、元教え子を深く傷つけたこと、そのことに何年もまったく気づいていなかったこと、卒業して何年もたっても彼の心の痛みと怒りは消えることなく増幅するばかりだったことを思い知らさせるという呪いをかけられてしまった。
人気アイドルになった元教え子が母校を訪ねてくると知って、なんなら彼の在学中に自分が彼にかけてあげた言葉を、あのときはありがとうございましたとお礼を言われるのではないかとさえ思っていたのに、だ。
挙げ句、あの子、今はアイドルだけど子どもの頃はパッとしなかったのよと周囲に話していることまで伝わっていた。
地獄でしかない…
読んでいる私の足がすくみっぱなしだった。
「早穂とゆかり」
小学校でバカにしていた同級生のゆかりが美しい大人になり事業に成功し有名人となり、ゆかりに対しマウントを取っていたいわゆる一軍女子だった早穂(現在はライター)が取材に行くことになった。
取材先には、ゆかりと早穂を取次いでくれた別会社の人など、ふたりの第三者も同席している。
そんな中、小学校のころに早穂がゆかりにしたいじめ行為が次々にゆかりの口から暴かれていく。
早穂の記憶にうっすらあることも、記憶にないことも。
早穂は何も考えず調子に乗って口にしていた言葉や行動のひとつひとつが、ゆかりの心には何十年も残っていたのだ。
した方は覚えてないけど、された方は忘れないとはよく言ったもの。
怒ると疲れるのでさいきんはもっぱら、あ、この人と絶対合わないわ、と思うと広い広い車間距離をとるようにしている。怒らなくて済むように。
車間距離以外にも、俯瞰で見れる努力をしたり、とにかく怒らない努力をしているので最近はだいぶ心穏やかな日々が送れている。
が、若い頃は、自分こそが正義と思い、その正義に反すると思う人に歯向かって正そうとし(我ながらほんとバカ)、当然相手は自分の思い通りになどならないので余計に腹が立ちよく怒っていた。
そして家に帰っては脳内ひとり反省会が開催され、
あのときああ言ってやればよかった!
あーーー時を戻してこういってやりたいなどと思っていたものだった。
そんな怒りん坊の私は、相手にひどいことも言ったと思う。
誰かに今でも恨まれてはいないか、心配になってしまった。
そして、言われて傷ついて忘れられない方の気持ちもわかる。
まったく大物にならなかったので、今のわたしなら!と仕返ししに行くことはないし、具体的に誰になにを言われたかも今となっては覚えてないけど。
どっちの気持ちも分かるけど、過去の自分がとても心配になった作品でした。
もう眠いので詳しくは書かないけど、1話目の「ナベちゃんのヨメ」も、わかる。
仲間内で誰かの悪口話になったとき、同調しないとちょっと気まずいあの感じ。
沈黙は金
和して同ぜず
悪口に巻き込まれそうになったときはこの辺りを肝に銘じ、今後の人生は歩んでいきたいもの。
そっかー、そうなのねー、と言いながら耳を閉じ、心の中では来年の開幕スタメンオーダーを考えていればよし。
辻村深月さんの本、初めて読んだけどとても面白かったので、他の本も読んでみたいと思います。