御本拝読「おみやげに選びたい!ときめくローカルパッケージデザイン」
全国津々浦々、駅をはじめとして、各地で「名物おみやげ」とされるものが販売されている。その多くはお菓子や真空パックの日持ちする食品で、具材や味付けが地方や県、地域によって異なっている。たとえば職場や知人同士の集まりなどで「先日旅行で○○に行ってきて……」と渡されるそれら。この時期、「帰省したので……」とそっと差し出されるそれら。それ自体はもう何十年も前から繰り返されてきた光景で、おそらくこの後も連綿と続くのだろう。
行くなり帰るなり、「職場や友人知人のために」おみやげを選ぶという行為はとても日本的だと思う。家族や恋人に各地の名物を買って帰るという習慣は他国にもあるのだろうが、それが友人知人仕事仲間という広い範囲にわたるのは日本独特のものではないか。そして、「予算内に収まって、かつおいしくてかわいいもの」と一見難しいニーズにこたえる各地の企業の努力と製品のクオリティには、やはり日本の「職人」気質が詰まっている。
本書では、地方別・県別に各地のおみやげを数点ずつピックアップしている。シンプルな写真と短い説明文が、これでもかという点数掲載されている。パイインターナショナルといえばこういうデザイン系の出版で有名だが、本当にその本領発揮である。確かに安いという値段ではないが、このボリュームとクオリティの紙媒体の本を出してくれることだけでもありがたい。
この本を読んでいてどうしてこんなに安心するのか、その理由は読了後にようやく気が付いた。アニメや漫画のキャラクターがいないのだ。
販促的要素で言えば、流行のアニメや漫画とコラボレーションして食品のパッケージだけを変えて売り出すのは有効なのだろう。一昔前はそういう二次元のキャラクターのイラストが付いたものは子供向けだったが、今やクールジャパン戦略のおかげか成人・社会人の大人買いやオタク活動により、売り上げも増えているのかもしれない。
が、あくまで私個人の考えだが、まったく関係ないキャラクターやイラストで飾られた時点で、購買意欲を削がれることがほとんどだ。どうしてもその商品を相手からリクエストされていたら買うけど、そのデザインなら基本避ける。なぜなら、流行のアニメや漫画とは全国区のものでいつでもだれでも目にできるものだからだ。わざわざ旅先や帰省先といういつもと違う場所に行ってまで、そういう普遍的なものにお金を払いたくはない。子供の頃はそういうキャラクターものが嬉しかったのは、そもそも感受性や視野が子供特有のもので「地域性」「郷愁」などにまったくアンテナが働かなかったからだと思う。
大人になった今、まあ私自身がアニメ漫画ゲームネット文化諸々にかなり疎いアナログ変人になったからということもあるが、流行やアニメ漫画を排除した純粋な「デザイン」のすごさや奥深さに感銘を受ける。もちろん、その商品だけのキャラクターとして動物やヒトを模したイラストが使われることはままある。が、それは「そのデザインのために」生まれたキャラクターであって、それを含めたパッケージデザインがおのおの秀逸で、素晴らしい。
日本人のセンスは、「白」の使い方にあると思っている。または、下地の色、一番面積の広い色。画面いっぱい、みっしりと細かく色や線を載せることも良いのだが、余白や敢えての均一塗りをどう生かすかが、日本人はとても上手いと思う。本書では、それがよく分かる。
本書は地方別になっているのだが、ざっくりとぱらぱらめくって見ると実は地域や県により色や雰囲気が似ていたり、隣同士でもまったく違うテイストだったり、ある種の県民性のようなものが見える。日本は島国で大きくはない国だが、その中にこんなにも多種多様な地域があり、それぞれにこんなにも素敵なおみやげがたくさんある。この一冊で、ちょっとした日本一周の旅行気分だ。
超個人的に、以前自分が勤めていた店の商品や、いただいたことのある商品があって、その度に当時やその人の思い出にひたってしまった。おみやげとは、地域の商品とは、そうやってタイムマシンのような機能を持っているのかもしれない。
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