御本拝読「パリ流 おしゃれアレンジ!」米澤よう子

軽やかにパリ流

 もともと、長沢節先生や森本美由紀さんが好きです。前回の御本拝読では安野モヨコさんを紹介してますが、ああいう系統のテイストや作品や人物に惹かれるのです。セツ・モードセミナー、行ってみたかったなあ。米澤よう子さんには、それをいい意味でミーハー化した軽やかさがあります
 独特なこだわりや感性は、芸術には必要でも一般人や貧乏人にはちょっと真似できないでも、それを良い、美しい、好きだとは思う。そういう、予算と生活レベルと憧れの葛藤を、米澤さんのパリ・ジェンヌ本を読むと上手に解消できる気がします。
 正直、北欧や西洋に憧れ、その文化や風習にかぶれるのは、開国後から令和の今までずっと流行として何かしらあるもの。それがインテリアや服飾、考え方だったり、国やジャンルによって偏りがあるだけで。ただ、冷静に見てると大体5年経たないうちにブームは去り、また15~20年くらいすると巡ってくるという……。小中学生の頃に韓流ブームのおばさまたちを横目に見ていた私の体感です。広める側も同じ感じで、その時その時のブームに調子よく乗っかってるだけの方は多い。
 そんな中、米澤さんは、ブレません。今現在も、しっかりとパリ流の日本人。数年前には、50代を前に婚活をされたコラムなども書かれていましたが、面白かったです。信頼できる。
 日本人や日本の文化を下げたり馬鹿にすることなく、「パリではこうなの!これがパリなの!」と高飛車に自慢して押し付けるわけでなく、実に軽やかにふんわりやわらかく「私はこれが好き!」と微笑んでくれるよう。

カラッとした美

 主にファッション、食、片付け、ライフスタイルなどについてパリ流にイラストとエッセイで語る米澤さん。本当にパリの人がこうなのかというより、米澤さんの中で昇華されたファッション論、ライフスタイル論。どれもに共通するのが、麻素材のようなサラサラ感。とにかくべたべたじっとりしていなくて、私はそこが一番好きなのかもしれません。
 すべての軸が、「自分」です。かと言って、自己中心的に我儘に振舞うということではなくて。むしろ、その真逆と言える気がします
 「自分が」良いと思う服装、メイク、髪型。「自分が」心地よいと思える食事、掃除、インテリア。「自分が」納得できる好きなものを選ぶことは、本当はとても難しい。それは全部「自分の」責任だから。
 「みんなこうしているから」「好きな人に合わせて」という理由で衣食住を決めると、深く考えなくてもいいし、楽です。自分以外の人のせいにして、いろいろと言い訳もできます。そして、自分と周りの境目がそうやって薄くて曖昧だと、相手や周りにも押し付けたり引きずったり引きずられたりして、どろどろねっとりして身動き取れなくなる時もあります。
 米澤さんのパリ・ジェンヌ論には、それがありません。自分と他者との境目がくっきりしていてお互いに不可侵だからこそ、相手の趣味や考えを尊重できる
 仲良し、はあっても、なれ合いはない。自分の機嫌は自分でとり、自分のことは自分で決める人同士だからこそ、からりとしていても固くあたたかい絆がある。そこから生まれる美は、何年経っても輝きを失わない。美しい芯は、よく乾いているからよく燃える。

モデルではなく

 私が好きな本書の一節があります。
 「おしゃれは好きだけど、学校・仕事・子育て…忙しくてそれどころじゃない時もある!けれど着る服ひとつで気持ちが良くなったり、晴れやかになるのはうれしい事。おしゃれは中心ではなくて、生活の一部としておしゃれがある。でも結果、おしゃれに見えたらいいわね。」
 
世にファッションハウツー本はたくさんありますが、何に重きを置いてるかというと、コスパだったり周りから浮かないことだったりちょっと人より先んじることだったり。もちろんそれも大切ですが、それを重んじすぎるとおしゃれは計算や平均を求める競争になってしまう気がします。
 米澤さんのこの一節が、見事に私のファッション(リアルクローズ)に対する思いを端的に表してくれていて、何度も読み返します。モデルや俳優でない限り、自分が着る服は自分の稼ぎで買うもので、そのためにはやっぱり仕事して生活して……その苦労含んでのこの言葉が、米澤さんの魅力やエネルギーの源であるのでは。
 モデルではない、ほとんど全ての毎日必死に生活する人へ。ささやかなところからでもちょっとパリ・ジェンヌ気分になれるヒントがたくさん書かれた本書です。
 



 

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