御本拝読「気づいたら独身のプロでした」カマタミワ
独身一人暮らし
女性作者のコミックエッセイはとにかく多い。育児、趣味、ライフスタイル諸々。やはり人間自分と共通項がある人の書いたものは気になるもので。私は、ここ数年、「独身」「一人暮らし」「収入不安定」という自分に当てはまるテーマのものは見てしまいます。
が、数多い作者さんの中で、本当に自分が共感したり面白く読めたりするものは案外少なかったりします。例えば、「独身」だけど実家暮らしで衣食住には困ってないとか、「一人暮らし」だけど収入は安定していて趣味にどっぷりお金も時間もつぎ込んでるとか、「収入不安定」だけど結婚してて素敵なパートナーやかわいいお子さんがいるとか。
仮に条件は全部自分と一緒でも、金銭感覚や衛生観念が自分と違ってることも多々あります。どっちが良い悪いじゃなく、本当に個人差なだけ。私の場合は「食」は最低限健康を維持できて自炊できればいいという低レベル、だけど掃除や洗濯は毎日したい微潔癖。食べ物のために何かを我慢したりはできない(=なら食べなくていいや、と諦める)けど、欲しい服や本のためになら食も光熱費も交通費も削れるだけ削るという人間です。
そんな私が、全シリーズ楽しく読んでてブログまでチェックしてるのが、カマタミワさん。絵がお上手なのはもちろん、絵にも文章にも勢いとどこかに冷静さと、「どんな状況でも楽しもう」という前向きさがあって好きです。
経歴や状況もまったく違うし、使っているお金の額が違う(特に20代の頃は)けど、30歳過ぎ~アラフォーの今、色んな価値観や不安や疑問の抱え方とその解決方法が結構自分と似ているから、すんなり「おもしろい!」「そうそう!」と楽しく読めます。
特にシリーズ最新の本書は、ガッツリとコロナ禍の時の過ごし方についてのページが多く、この辺の考え方や過ごし方が割と共感できるか否かが大きかった気がします。私は、ここがピッタリ合ってたので、読んでて「同じ人がいた……」とホッとできました。
小さな幸せ発見
よくある女性エッセイの「日常の小さな幸せを大切にしてます☆」売り、割と世間的にはもう飽きられている気がします。不景気が慢性化し、給与は据え置きで物価や納税額は上がっていくばかりの中で、そんなことはみんなもうやりつくしているから。むしろ、その人の考える「小さな」が他の人にとっては「贅沢」だったりして、鼻についたりして。
むしろ、叶姉妹レベルのゴージャスさだと完全に別世界の話なので楽しんで見ていられる。憧れるとかいう気すら起きず、そのファンタジーに気持ちよく酔える。少なくとも私は。
カマタさんは、それを売りにしているわけではなく、単に漫画のネタや違うテーマ(料理や買い物)の漫画の流れの中の1コマや一言として時折さらりと「My小さな幸せ」を描かれています。そのナチュラルさが、面白さに柔らかさを添えていてとても良い。特に、自然に小さな子や動植物に優しいシーンがあって好きです。
カマタさんを見ていると、実は「小さな幸せ」って探したり掲げたりするものではなくて、自分自身の持つあたたかさや優しさが他者や風景に反映されているだけなのかなと思います。見つけるというか、気が付いたら自分の中にあった、くらいの。
今もこれからも
基本的にギャグテイストで今現在の出来事を描かれているカマタさん。ですが、特に単行本のシリーズでは、過去の自分のお金の使い方、老後の自分のためのお金の使い方など、かなり現実的な問題を丁寧に描かれてもいます。
面白おかしい毎日や楽しい現在。それが続けばきっと幸せ。だけど、体は老いていくし、特に女性はやはり女性ホルモン(毎月の生理、更年期など)に振り回されたりすることもあり、独身一人暮らしも何らかの変化を余儀なくされます。
今は正社員の立場や定収入があっても、今のペースで10年後も20年後も働けるのか。仕事が減ったり、またコロナ禍のような大きな社会の動きはないのか。急な病気や職場の危機等、不透明で不安定なのは、誰しも同じこと。
一緒に住まう家族や頼れるパートナー、尊属からの援助や遺産。そういったものが見込めない独身一人暮らしはいかにこれからを生活するのか。それを、カマタさんが冷静に、しかし重くなりすぎずに、考察して計画していく様子は頼もしいです。
頼るものがない、ということは、背負うものも少ない、ということだと私は考えています。自分自身さえきちんとしっかりしておけば、自分以外のもののために突然負担をひっかぶることも可能性は少ない。一人であることは、自己責任という言葉と引き換えに色んな自由を得ているのだと思います。
その自由の中で、自分はどう生きるのか。「自分のこれから」を良くするのも悪くするのも、自分次第。カマタさんの軽妙な語り口で、「今の自分」を肯定しつつ「自分のこれから」を考える姿勢を、私はお手本にしたいと思います。
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