自己紹介その8
前回、卒園式の発表説明に任命された話をした。
本番について記しておきたい。
まず、最初に言っておきたいことは、卒園式までの出来事だ。
覚えているのは、私は派手に体調を崩した。
どういう病気かは覚えていない。
確か、腹痛がひどかったように思う。
母は私の仮病を見破るのが得意だった。そんな母が幼稚園を休ませてくれたのだから、実際になんらかの症状があったのだと思う。
今から考えたら、原因は明らかだ。
きっと、卒園式の発表のプレッシャーで体調を崩してしまったのだ。
当時の私にその自覚はなかった。
というか、今回、思い出を語る途中、記憶を辿っていて、その結論に辿り着いた。
あれは間違いなく、発表説明のプレッシャーだ。
そういえば、肝心の発表会で何をするのか話していなかった気がする。
私たちが卒園式で行ったのは「ピーターパン」の演劇だ。
演劇というか、ミュージカルというか、不思議な催しだった。園児全員が、それぞれ様々なピーターパンのキャラクターになる。そして、演劇としてキャラクターのセリフを言ったり、場面に合わせた歌を歌ったり、などを行った。
当時から、一人の園児が目立ちすぎるのがよくないという風潮があったのか、主人公であるピーターパン役などを一人が演じるわけではなかった。場面が変われば別の園児がピーターパンを演じる。それに、シーンによってはピータパンが二人同時にでてきて演じる瞬間もあった。
さて、その演劇ピーターパンについて、私が思っていたことといえば...。
実は、ピーターパンという作品があまり好きでなかった。
演じる為にクラス全員でDVDを見たと思うのだが、私は既に祖母の家で同じものを視聴していた。
冒頭のピーターパンが影を探しにウェンディの家に迷い込むシーンは好きだった。ティンカーベルの粉をふりかけられて、ロンドンの街を飛び回り、ネバーランドに行くシーンも好きだ。
だけど、好きなのはそこまでだ。その先はあまり好きじゃなかった。ピーターパンにあまり魅力を感じなかったし、登場人物の行動にも感情移入できなかった。
イギリスの子供向けだから、多少はしょうがなかったかもしれないが、私は千と千尋の神隠しやラピュタの方が好きだった。確か、隣のクラスはもののけ姫の演劇をやっていて、それが羨ましかった。
そういった意味でも卒園式の発表会は乗り気でなかったと思う。
そういえば、発表会の練習に関して、強く覚えていることがある。
体調を崩して、2週間ぶりぐらいに幼稚園に行った時に、演劇の内容が一部大幅に変更されていたことだ。
いくつかの歌が別の曲、当時はやっていた曲の替え歌になっていたのだ。
あれには驚かされた。突然自分が全然違うクラスに入ってしまったかのような強烈な孤独感に苛まれた。
直後に私の様子がおかしいことに気づいた紗希が一生懸命練習に付き合ってくれたからことなきを得たが、それがなかったら、泣いていたのかもしれない。
紗希には助けられてばっかりだ。
ちなみに私はティンカーベルを演じた。確か、これは先生に勝手に決められたのだと思う。
私に選択権があったら、ウェンディを望んだはずだ。ティンカーベルのふてぶてしい態度が好きじゃなかった。
ただ、好きな役ではなかったけれど、好きなシーンはやらせてくれた。冒頭のシーンだ。これは嬉しかった。前述した通り、ネバーランドに行くまでが好きだったからだ。
もう一つ、嬉しいことがあった。私の演じるシーンではピーターパンもティンカーベルも二人ずつだった。そして、私と共にティンカーベルを演じたのが紗希だった。
これは恐らく先生の配慮だろう。
幼稚園の最後の発表で、その隣にいるのが紗希なのはとても嬉しかった。
発表自体について覚えているのはこの程度だ。
私にとって発表自体はそこまでの試練じゃなかったし、特段楽しいものでもなかった。
私にとっての試練は発表説明だ。
散々時間をかけておいて申し訳ないのだが。
実は、発表説明は大成功だった。
後にも先にもこの時だけだと思うのだが、私は大勢の前に立って、これから練習した言葉を話すという時。
不思議に妙な高揚感を覚えた。
大勢の人が私の言葉に耳を傾けているのが心地よかった。
これを機に、あがり症が治ったということはない。恥ずかしながら、小学校、あるいは中学校ぐらいまで、クラスでちょっとした発言をする程度ですら、少し緊張していた。
それなのに、あの時ばかりは、私は謎の自信と高揚感に包まれていたのだ。
家に帰ってから、親が撮っていたビデオを見返しても、私は私じゃないみたいに、はっきりとした声で発表説明をしていた。
こんな大きな声出せたんだって母親に言われたことを覚えている。
結果として、発表説明に任命された後、体調を崩すほど緊張したが、本番は大成功だった。
本当にそれで何か成長できたわけではないのだが、大きな経験になったのかもしれない。
何より紗希に褒めてもらったのがとても嬉しかった。
「やっぱり〇〇はすごいね!」
そう言ってくれたのが本当に嬉しかった。
こうして私の最後にして最大の試練は、これ以上ないくらいの成功で幕を閉じた。
時は進む。
次回は小学校の記憶について話していきたいと思う。