『帰って来た橋本治展』 イラストレーター・小説家・ニット作家、その正体
フジテレビと組んで軽チャーなんて、ふざけてたイメージが強かった橋本治。ところが、興味を持った対象については、とことん考え抜く、知の深堀りマスターのような人だった。
本展は彼の出自から始まり、学生時代の葛藤や全共闘運動との距離、イラストレーターとして世に出て、愛する少女漫画から文体を見出して作家として認められるまでの第1部で始まる。
この人に惹きつけられたのは、傾いてるものを無理やり鋳型に押し込めようとする大人に対しての反逆が根っこにあったたからだったのだ。
とはいえ、マッチョも暴力も嫌い。彼の武器はそこにはない。
自分の知らないことをとことんまで突き詰め、細部まで知りたいという素直な欲望。そして、自分の愛してやまないものを使ってその獲得した知をデザインし直すことが、彼の強力なアイテムだった。知や美をわかりやすくみんなの手に届くものにしようということが、意識せずとも彼の思考の一部だったのかもしれない。
後半生では、好きなものを身に着けたいという思いからニット作家になったり、古典や歴史ものを挟んだあとに市井の人を主人公に小説を書いたりしてることも惹きつけられた点だった。
第2部では、作家としての仕事が紹介されてた。その仕事量は、ものすごい。彼の頭の回転力に圧倒される。その能力に加えて、人柄も関与してたのだろう。世から求められる作家として何でも受けちゃう、ちょっと良い人柄が、親友との書簡でも垣間見えた。周りで心配してた人もいただろう。
ロビーを入ると、画文集の制作会議のひとコマが流れているが、その画面からもパッションとともに優しさがにじみ出てた。
興味と著作の幅広さは、リンクする。誰かの評論で『暗夜』が激賞されていて読んだことがあった。彼の作としては珍しいSF小説。こちらはないのかなと思ってたら、小さいコーナーに展示されてた。説明書きには、大島弓子の漫画から着想を得ていた、との記述があり興味深かった。眠ってる本を掘り出してみよう。
そして、『窯変源氏物語』や『双調平家物語』、『徒然草 桃尻語訳』などの古典文学の橋本治版。
さらに、少女漫画論の先駆け、三島由紀夫や小林秀雄を扱った評論など。
その仕事ぶりは、天才のそれ。難病を患ってるときにもベッドの中で仕事してたよう。休めない脳だな。
第3部は、イラストレーターとニット作家としての作品概要展示されてる。
『時間ですよ』の名プロデューサー久世光彦さんからイラストを見出されたのは有名な話。さくらと一郎の歌う『昭和枯れすすき』の、ジャケットデザインも彼の作だ。子供の頃に観ていて、これも心惹かれるものだった。
最後は、彼の等身大写真がお見送り。
マルチに生きた人生が丁寧に紹介されていてオモシロかった。
未読の小説読んでみよう。
ついでに
3人の井戸端会議も面白かった。
糸井さんが二人にタジタジ。