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秘密のカヲきゅん5


カヲルは見た目が若返っても中身に変化はなかった。
朝は五時に起床し、食事の支度、ラジオ体操、トモヤを起こす、洗濯、掃除というルーティンは変わらない。
だから趣味や好み、話し方や言葉遣いも変わらない。
若返ってから三日くらいまではよかったが少しずつ諸問題が浮上し始めた。
「あら…お孫さん?」
ご近所の不二子さんか訪問してくれた。彼女は老人会でいつも一緒に旅行にいく仲だ。
「…えと…カヲルおばあちゃんの実家の親族なんです」
「はじめましてね。私はこの裏の峰岸というんだけどカヲルさんいらっしゃる?」
「え…と」
カヲルはとまどった。
(どうしたらいいんだっけ…)

今朝、トモヤが出勤する前に打ち合わせをした。
「いい?カヲちゃんは親戚ってことにするよ。カヲちゃんの妹の孫でいいかな。そんで、カヲちゃんは海外の娘のところに遊びに行った…ということにしよう」
トモヤは丁寧に紙にメモを大きく書いてくれた。カヲルはいつもは老眼鏡をするのだが、このままでも見えることに感動した。
「トモちゃん、字がよく見えるよぉ。うれしいなぁ」
「カヲちゃん…ちゃんと覚えてね」
トモヤはいくらか心配になった。でも、仕事に行かなくてはならない。
「大丈夫だよ。なんかねぇこのところ物忘れが減ったし、スマホも上手に使えるようになってきたからね」
カヲルは嬉しそうにしている。どうやら見た目だけでなく、脳内の機能も若返るようだ。

「カヲルおばあちゃんは、トモちゃんのパパとママに会いに海外に行ってていないんです…」
峰岸不二子さんはびっくりした。
「あらっ、そうなの?いつもなら出かけること教えてくれるのに…どうしたのかしら」
「あっ、あの、急に決まったから…そ、それで私がお留守番にきました」
微妙な説明だ。こんなんで大丈夫だろうか。
「わかったわ。明日の老人会のカラオケ部は欠席って会長に伝えておくわね…それにしても…」
不二子さんは微笑んだ。
「やっぱり親戚なのね。あなた、若い時のカヲルさんにそっくり。カヲルさんはここに二十歳でお嫁に来たからね」
カヲルも微笑んでうなづいた。
(ああ…私だけ五十年も前に若返っちゃって…寂しい。カラオケ行きたい…不二子さんと世間話をたくさんしたかった…)
カヲルは玄関を出て行く不二子さんの後ろ姿に切なくなった。



中屋敷カヲル 桜の季節編

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