【連載】「元刑事夫婦の事件簿~老舗旅館に響いた女将の悲鳴。事件現場に紛まぎれ込んだ灰色の野良猫だけが知る事件の真相とは!~」中編(「灰かぶりの猫の大あくび」6(旅館編)改題)
登場人物
六角瑤子(ろっかく ようこ)演 - 片平なぎさ
元京都県警の刑事。元夫の雅也とは幼馴染。京都市内で起きた「いろは歌」にちなんだ連続殺人事件をきっかけに、雅也とは離婚。現在はフリーランスで記者をしている。
嵐山雅也(あらしまや まさや)演 - 船越英一郎
元京都県警の刑事。元妻の瑤子とは幼馴染。瑤子と、よりを戻すことができないかと考えているが、何かと煙たがられている。現在は私立探偵。
灰かぶりの猫
久しぶりに小説を書き始めた、岩手県出身の三十代。思わぬ形で猫に転生するも、無事人間に戻る。が、上の二人に主役の座を奪われ、タイトルも変えられてしまう。
(詳しくはプロフィールの通り)
黄昏新聞の夏目
新米記者。アニメ好き。最近は、『ゆびさきと恋々』の雪ちゃんがお気に入り。「旅館編」では、気付けば、猫の相棒のようなポジションに。
(以下、六角瑤子=瑤子、嵐山雅也=雅也、灰かぶりの猫=猫、夏目=夏目、と表記)
※各固有名詞にリンクを追加。
※この物語は間違いなくフィクションです。
これまでのあらすじ1
瑤子と雅也が偶然再会した岩手の温泉旅館で、猫騒動が起こる。雅也は猫アレルギーの女将を気遣う中、館内で起きた別の事件の匂いを嗅ぎ付け、厨房へと向かう。一方の瑤子は、猫騒動の真相に迫るための調査を開始し、二人部屋に泊まる、ある男女を訪ねる。
これまでのあらすじ2
猫は旅館内に響き渡った悲鳴に驚き、細田守監督の劇場版『時をかける少女』のように、人間から猫へと跳躍してしまうも、無事人間に戻ることに成功する。そこへ訪ねてきた瑤子に応対し、猫のことは何も知らないと白を切るも、嘘を吐いたことが後々、この物語に何かしら影響を及ぼしはしないだろうかと、危惧する。
――厨房へとやってきた雅也。しかし、一般客が許可なく中に入れるはずもなく、割烹着姿の沢村一樹似の若い男に、入り口で止められてまう。そこで雅也は、違法と知りつつ、奥の手を使う。
雅也 「そうですか。実は私、こういうものなんですが(ジャケットの胸ポケットから、黒い手帳のようなものをちらりと見せる)」
――沢村一樹似の男の目の色が変わる。
沢村一樹似の若い男
「(雅也に顔を近づけ、小声で)まさか、通報を受けて?」
雅也 「(瞬時に事情を飲み込み)ええ」
沢村一樹似の若い男
「た、助けてください。この中に、あの事件の逃亡犯が」
雅也 「(あの事件? と内心驚きつつ)そうでしたか。でも、安心してください。私が来たからには、必ず捕まえて見せます」
沢村一樹似の若い男
「ただ犯人は、僕たちの中に完全に紛れ込んでいます。その中から見つけ出すのは、簡単ではありませんよ」
料理長
「おい、真下! 何してる!」
沢村一樹似の若い男
「はい! すみません。今戻ります」
――沢村一樹似の若い男、後ろ髪を引かれる思いで厨房へと戻っていく。
雅也 「(厨房の奥を覗き)あれが料理長か。まるで平泉成さんじゃないか。しかし、困ったな。何か、厨房の容疑者全員を呼び集める妙案があればいいんだが。――仕方ない。ここは瑤子を頼るとするか」
――雅也、瑤子に助けを求めるため、館内を探し始める。
――館内で一通り、情報収集を終えた瑤子は、消去法として一つの結論を導き出す。
瑤子 「やはり、さっきの二人が怪しいわね。もう一度、部屋を訪ねてみようかしら」
――瑤子、再び、猫と夏目の部屋へ向かう。
――人間に戻り、部屋の中で夏目と二人、猫はこれからどうするべきかを思案していた。このまま何事もなかったかのように、チェックアウトすることも可能だったが、ここまで広がってしまった物語の風呂敷を畳めるのは、やっぱり自分しかいないのではないかと、「よっこいしょういち(横井庄一)」と、重たい腰を上げる。
猫 「夏目くん」
夏目 「なんですか」
猫 「今回の事件の関係者を、フロントに集めてくれないか」
夏目 「そのセリフ、まさか?(思わず立ち上がる)」
猫 「(夏目を見上げ)そのまさかだ」
夏目 「じゃあ、事件の犯人が。って、事件なんてありましたっけ?」
猫 「分からん。だが、そう言えば、この物語も終幕に向かうはずだ」
夏目 「じゃあ、『聖母たちのララバイ』が聴けるんですね」
猫 「いや、髙橋真梨子さんの『ごめんね…』かもしれない。――というか君は、いったい幾つなんだ?」
夏目 「永遠の17歳ですよ」
猫 「おいおい」
――夏目、職を失う覚悟で、文字通りの禁断の一手を指す。廊下の真っ赤な火災報知器の「強く押す(PUSH)」に親指を掛け、猫に「いいんですね?」と許可を取ってから、ふん、と力を込める。
――ジリリリリ!(館内に非常ベルが鳴り響く)
猫 「夏目くん。さあ、最後の舞台へ向かうぞ!」
夏目 「はい!」
――物語の都合に合わせ、都合よくフロントに集まった事件の関係者。猫、夏目、雅也、瑤子、猫アレルギーの女将、沢村一樹似の料理人、平泉成似の料理長。しかし、それだけでは終わらず、厨房の人間は計10人だった。沢村一樹似と平泉成似を除いた残りは、内藤剛志似、小林稔侍似、川上隆也似、神保悟志似、西岡德馬似、寺島進似、伊東四朗似、紅一点で床嶋佳子似。山村紅葉似がいないのが不思議だが、長年にわたり、各局のサスペンス劇場を彩ってきた俳優陣が、いや、俳優に似た人物たちが勢ぞろいしていた。これにはさすがの猫も、気後れを起こす。意気揚々と、再び舞台の上に舞い戻ったものの、果たして自分が、主人公など名乗っていいものかと悩み始め、だんだんと瞳から自信が失われていく。
夏目 「(猫を見かね)猫さん、しっかりしなさい!!」
――夏目、猫を鼓舞するように背中を叩く。猫、目を覚ます。
猫 「そうだった。僕は無名の書き手だが、まだ一冊の著作もないが、この物語の主人公だった。(首を振り)いけない、いけない」
夏目 「さあ、皆さんがお待ちかねです。ホームズでも、コロンボでも、ポワロでも、コナンくんでも、金田一少年でも、折木奉太郎でも、久能整でも、湯川学でも解けない事件です。猫さん、猫さんだからこそ出来る、この事件の真相を、ぜんぶまるっと明らかにしちゃってください!!」
猫 「(瞳にうっすらと涙を浮かべ)夏目くん、ありがとう。君がいてくれて、本当に良かった」
――夏目、猫に真剣に見つめられ、内心ドキリとする。顔がりんごのように赤くなる。
猫 「えー、お集まりいただいた皆さん、僕は灰かぶりの猫と言います。タイトルは違いますが、一応、この物語の元主人公です。推理ものにおいて、脇役が事件を解決することはほとんどなく、その役割として与えられるのは、大抵、読者に対するミスリード役です。例えば、名探偵コナンの毛利小五郎しかり。ですが僕は、この場で、この事件の真相を解き明かしてご覧に入れます。ここからは、僕が主人公です。とくと、僕の推理をお聞きください」
――紆余曲折を経て、「灰かぶりの猫の大あくび」旅館編、いよいよ終幕へ。
つづく
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