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映画『閉鎖病棟ーそれぞれの朝ー』鑑賞

『閉鎖病棟ーそれぞれの朝ー』2019年公開
監督・脚本:平山秀幸
原作:帚木蓬生『閉鎖病棟』
出演:笑福亭鶴瓶、綾野剛、小松奈々 他

2024/10/16(水)鑑賞
2024/10/23(水)執筆

ABEMAで期間限定で無料公開されていたため視聴。


由紀ちゃん綺麗だなスタイル良いなと思って見ていたら途中で小松奈々と気付いてすっきりした。存在は知っていたものの実際に演技を見た記憶がなかったがとても良かった。小屋でレイプされて逃げ出し、バー?の横で蹲っていたところを酔っ払いに暴言吐かれた後の慟哭が本当につらかった。切れて流血している上唇に、喉から声を抑えられずに出してワンワン泣く姿が痛々しくて、抱きしめてあげたいと思ってしまった。女の子が一人で抱え込みにはあまりにも重くて、大人が助けてあげなきゃいけないよ。
でもどんなに苦しんでいても夜は明けて時は流れる。苦しみを忘れないで、ちゃんとした格好で出廷してあの場で話せるようになっていたのはしたたかだと思った。

施設の中で着ている服が質素というか、シャツとか英字がプリントされたトレーナーとかがイオンで売ってそうだなという感想を抱いた。頓着がないというよりも、あまり好きなように買ってもらえなかったから服の趣味が控えめになってしまったのかなと思った。

流産(死産?)が序盤でさらっと描かれていたが、普通にえげつない。

娘を女として見ざるを得ずDVを受けて精神を摩耗させていたお母さんもかわいそうではある。再婚相手にすべての憎悪の念を向ける。

院内の閉鎖的な暗い雰囲気に呑まれそうになった。冬の日の光の弱さと、山の中で日光があまり入らないために画面が冷たく感じた。病院って刺激を考えて照明が少し控えめだったりするのだろうか。壁や床が白くてでも廊下とか部屋の隅は暗くてそのアンバランスさが印象に残っている。無機質に思えるんだけど、でもその空間は患者たちが生きている場所なわけで。自由に外に出られない状況も相まって、生きるってなんだろうなあと思った。

精神科病院で働く職員さんて大変なんだなとしみじみ。逐一の施錠とか危険物の管理とか患者さんの世話とかずっと気を張っていなければいけない。だからドライな対応にもなるよなと思った。来年に介護体験を控えている身だからこそ感じるものがあった。

チュウさん。自分が見逃してるだけかもしれないけど何歳だったんだ。妹の感じを見て35前後くらいかな。さん付けで呼ばれてるし40代かもしれない。20代後半と言われてもギリ納得できる。不思議な年齢不詳。

言い方が良くないかもしれないけど、患者の中ではまだマシ、わりかしまともな人枠だったけど彼も疾患を抱えているからこそ入院しているわけで。自分の頭叩いちゃったり喋り方が他の人と違ったりしている人たちを見てから中弥を見ると安心していたのだけれど、症状が出たときの絶望感、は言いすぎだけどああ、という気持ちになった。
廊下歩いてるときに聞こえ始めたときの表情がすごくて、片側だけが一瞬引き攣って少し顔を横に向ける一連の動作が自然で。声を荒げたときの台詞が「うるせえよ!」とかじゃなくて「うるさいよおぉ」って語尾が震えて萎む感じがドキッとした。長い間付き合ってきたんだなっていうのが感じられた。耳を塞ぐというより掌を叩きつけて遮断するような動作をしていたが、複数の声が纏わりつく感じなのだろうか。幻聴って耳の穴に指突っ込んでも変わらず聞こえるだろうから感覚がおかしくなってそれによっても気がおかしくなりそう。
まともだと思ってた大人が取り乱して、看護師さんとお医者さんに引き摺られて隔離されて行く様子を見るのが結構堪えた。綾野剛の自然な演技だからこその感情。

中弥の病気について発症理由とか詳細に描かれていなかったが、サラリーマンとして普通に働いていたのに急に発症するっていう話はよく耳にするから他人事ではない。仕事のストレスとかかな。なんかブラック企業で働いてたのが想像できる。でも大人しい感じ出しときながら、規則違反して物売ってるんだよな。元々はすごく気弱な性格とかではなかった気がする。秀丸さんの車椅子押してる笑顔とか無邪気なときあったもんな。

セットされてない目が隠れるくらい伸ばされた髪。リンスとかトリートメントなしのシャンプーで洗ってるんだろうな。もしくはメリット。毛玉がありそうなカーディガンとヨれたトップス、ベージュやグレーの淡い色とかカーキがメインの服のラインナップが生命感の薄さを感じさせた。ダッフルコートはかわいかった。

家に帰ったとき、お母さんが覚えていて良かった。あそこで息子のこと忘れてたら残酷すぎて泣いてたかもしれない。

4人で外出して並んで撮った写真、何も知らないで見れば普通の人たちの自然な笑顔で(秀丸さんは硬かったけど)、疾患とか関係ないよなって気持ちになったけど一方でそれでもなあ、と思ってしまう自分もいて。

小屋にあった壁掛け黒板の予定誰が書いてたんだろう。看護師さんが書いてくれてるのかな。

患者役の役者さん方がもうすごくて、他の作品にも多数出演されている役者さんだというのが信じられないくらい精神疾患がある患者さんそのものだった。この作品の世界を形作るリアルさが素晴らしかった。
紙のチケットをすぐ口に入れちゃった女性と高い声で早口で喋る男性(旗振ってたのもこの人?)がすごく印象に残っている。包まずに言うと、うわあ、と思わされたから。

予告で「その優しさをあなたは咎めますか?」っていう問いがあって、この優しさ=2度目の殺人を指すので合ってる?
これに関して、秀丸さんの殺人が由紀を救ったのは確かだけど自分は由紀の復讐のためだけではないと考えていて。自分が罵倒されたのは言うほど怒ってないような気はするが、院内での迷惑行為を咎めたい意識はあったと思う。
ただ、死刑判決が下った事件を起こしたきっかけが不倫の目撃で、男女の行為に対してトラウマがあったのが大きかったのかなと思っている。写真を見てショックを受けたことであの男は許せないという個人的な動機が強まったのではなかろうか。完全黙秘してたのも由紀の言葉に顔を歪ませたのも、完全に利他的な殺人ではないという後ろめたさがあったからなのではないかな。
だから、一概に咎められないべきとは自分は思わない。

丸ちゃんよくカメラを中弥に渡せた。偉い。
例の写真を見て中弥が発作起こして秀丸さんが一歩を踏み出してしまったのを見て、やっぱり登場人物が患者であり社会の「普通」から外れた人たちであることを再認識させられた。

梶木秀丸を心の中で鶴瓶さんと呼んでいたからこの感想ではどっちで書こうか迷った。鶴瓶さんでしかないんだけど、あそこにいたのは梶木で。すごい人だなと思った。

綾野剛が綾野剛じゃなかった衝撃。言い表すのが難しいんだけど、美しいと感じる瞬間があまりなくて(美しいんだけど!)精神疾患患者のうちの一人だった。

なんかこの感想、「患者」って言葉使いすぎて嫌だな。彼らなりに生きようとしているのにラベリングして区別してしまっているような気がする。

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