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#13 酔っぱらい風認知症高齢者 過剰摂取を疑われる

認知症と診断されてから1年ほど経ったある日、認知症の姑サミーさんが入院した。

その日のサミーさんは朝からパニックで何度も電話をかけてきては、目薬がないことを訴えていた。少々面倒くさかったが、仕事帰りに眼科で目薬をもらって届けることにした。事前に連絡をしたが、夕方マンションへ行っても玄関を開けてくれない。換気扇から漂う石鹸の香りの湯気で、お風呂に入っていることがわかった。仕方なくドアノブに目薬の入った袋をひっかけて帰った。
19時30分 薬を取り込んでもらおうと電話をかけた。

すると、やけに明るいが感じだが、何やら呂律の回らない、酔っぱらいのようなサミーさんが電話に出た。
「かねすけさーん、どうしたぁ?」
「今テレビ見てたのー、えーウソ(笑)」
「本を書いていた。ちがう、野球しててん」

― ???! お母さん、なんか変だよ。大丈夫?
  ちょっとー、おーい

「えー?ふらふらするー」

あかん。何か起こっている。

すぐに電話を切り、息子たちにばーちゃんが緊急事態だと説明をし、サミーさんのマンションへ向かう。途中で夫Nさんに電話して、弟にも連絡をするように伝える。

サミーさんは脳梗塞かもしれない。

19時50分 自宅に着いて合鍵で玄関を開けるとふらふらしながらサミーさんが立っていた。

明らかな麻痺はないが、相変わらずふわふわ、ふらふらしており、話も通じにくい。すぐに救急車を呼ぶ。10分ほどで救急隊は到着したが、酔っぱらったようなサミーさんを見て「認知症ならいつもこんな感じでは?」などと冷たく言われるが、いつもと違う状態であることを説明する。どうにか10分ほどで搬送先が決まり、私は車で救急車の後を追う。

20時30分ごろ 病院へ到着するが、そこからが長かった。

病院へ着いてからもへらへら、ふわふわした状態は変わらずだったが、とりあえずの検査データに異常が見当たらず、担当してくれた医師も原因がわからないと首を傾げた。なので、何度も薬物の過剰摂取を疑われたが、抑肝散しか飲んでいないのに過剰摂取はないと思いますよと鼻で笑いながら返答をした。MRIの結果を待っていたが、やはり異常はなく、へらへらと目をつむったまましゃべり続けるサミーさんを眺めるしかできなかった。

0時すぎ 結局原因がわからず、先生も頭を抱えて困っていた。症状はほとんど変わらず、ひとり暮らしの高齢者をこのまま家へ連れて帰るわけにはいかないと私が強く訴えて入院となった。

翌日、神経内科のベテランの先生が原因を突き止めてくれた。

結果は、高齢者てんかん

正確には焦点意識減損発作(複雑部分発作)と言うらしいが、よくある突然バッタリ倒れるようなてんかん発作はあまりなく、サミーさんのようにボーっとして意識がもうろうとするような症状が短時間みられるのだそうだ。あまりに時間が短ければ見過ごされることも多く、今回のサミーさんの発作は長時間続いて、且つたまたま私が発見してしまったのだ。

一晩寝るとサミーさんの発作も治まった。本人は何があったのかさっぱり覚えていないので「早く帰りたい」を繰り返し、看護師さんたちも元気な認知症の対応に疲れて、4日での退院となった。

その後、抗てんかん薬を飲んで発作が起こることはほとんどなかったように思うが、前述したとおり高齢者てんかんは見落とされやすいので、頻繁に発作が起こっていたかもしれない。ひとり暮らしなので、本当のとこはわからない。

とにかく、この後からよく幻視が現れるようになった。異常な電気刺激が起こり、脳が誤作動し始めたのだろう。この発作の出現はサミーさんの脳の中で何かが変わっていくターニングポインとなった。




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