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#8 デイサービス利用 拒絶と受容の狭間で揺れる不通所婆の葛藤

認知症の在宅生活を家族の介護だけで乗り切るのは無理な話である。状態に合わせて介護サービスを利用していくことが大切だ。認知症の姑サミーさんも診断からすぐにデイサービス利用を開始した。


何度も言っているが、サミーさんはプライドが高く、きちんとしていることをモットーとしているので、そんな自分がデイサービスを利用していることを同じマンションの住人に知られてしまうのは恥ずかしいと繰り返し訴えた。
それでも一日中家の中をウロウロして、大事なものもそうでないものも混ぜこぜにして引っ掻き回す毎日では認知症が進行することは明白だった。友人と日時を約束して出かける、自分で習い事へ行くということができなくなってしまったので、デイサービスを利用することにした。

デイサービス利用 ときどき不通所婆

ほとんどのデイサービスで体験利用ができる。サミーさんもタイプの違うデイサービスを体験利用し反応を見てみた。
一つ目は一軒家を改修した定員10名の認知症対応型のデイサービスA
二つ目は比較的身体は元気な方の多い定員20名のデイサービスB

デイサービスAは雰囲気はよかったが、少人数なこともあり、ほころびが出てしまわないかと緊張してソワソワするサミーさんは目立ってしまいかえって落ち着かないのではないかと思われた。
デイサービスBは適度な人数で、ソワソワしていても紛れてしまいそうな感じだった。コミュニケーションが取れる方が多く、和やかなムードが漂っていた。その中ではややサミーさんの認知機能は平均以下となっていたようだが、その時点ではきちんとした自分を見せるためにちょっと頑張ってもらうのもいいだろうと判断して利用を開始した。

週2回の利用から開始した。
一週間のスケジュールを書いた紙を電話台に張り付けて、いつでも確認ができるようにしていたので、火曜日と木曜日の欄に大きくデイサービスと書いた。
今日が何日かわかっていないので、モーニングコールで日付と曜日を伝えて、スケジュールを確認してもらうということを繰り返した。


利用当初は葛藤する日々だった。
デイサービスへ行って、周りの人とのおしゃべりやレクリエーションでの楽しい記憶は残っており、
「あそこへ行って元気でいたい」
という気持ちと
「私はまだこんなところを利用する状態ではないのではなか」
「そんなところにお世話にならなくてもひとりで頑張れるのではないか」
という気持ちが日々せめぎ合い、
朝のお迎えの時に鍵を隠したり、「そんなこと聞いていない」「行きません」と激怒し、拒絶した。

私が家まで行けるときは、訪問しゆっくりと話をすると落ち着いて、そのままデイサービスに送っていくということを1か月ほど続けた。次第に落ち着いてきて、基本的には明るくお出かけしていくようになったが、時折スイッチが入り「行かない」となった。

そんな時は「今日は行かんとき」と不登校児ならぬ不通所婆は放っておくことにした。度々私が出張っていればそれが標準になってしまって「さみしいから来てほしい」と思っているサミーさんの思うつぼなので、私も負けまいと戦略的に放置を貫いた。デイサービスを休むと昼ご飯が確保できないという事態になったが、財布があれば自分の脚で何か買いに行くということもできるし、一食抜いたところで命にはかかわらないというスタンスでいた。

そのうち一人で買い物も行かなくなってしまったので、「ひとりでの不安な時間を減らせたらよいですね」とケアマネージャーさんと相談して、土曜日にデイサービスCの利用を追加した。

朝の送り出しサービス開始

ひとり暮らしの認知症の方にとって、時間の決まっているデイサービスのお迎えに合わせて、時間を見計らいながら順序だって準備をするということは結構難易度の高い活動である。
サミーさんも多分に漏れず、認知症の進行で、徐々に遂行機能の低下がみられ、デイサービス利用から1年半ほどして、朝のルーティンがこなせずに送迎の時間に間に合わなくなることが頻発した。

【サミーさんの朝のルーティン】
起床・洗顔・歯磨き
着替え
布団干し・ベッドメイキング
洗濯
ゴミ出し

 

ASDぽいこだわりの強さが目立つサミーさんは朝のルーティン、特に洗濯が終わらないと気が済まない、もしくは腹が立つ人だ。認知症になって柔軟な対応と言うのがさらに難しくなっていて、「洗濯が終わっていないなから行きません」とか「今から洗濯するから行けません」などと言って度々送迎に来てくれたデイサービスのスタッフさんと揉めた。

少々キツめのデイサービスの相談員に、送迎時間に間に合わないのは困ると言われて、ケアマネジャーに相談して朝の送り出しサービスをお願いした。朝の送り出しサービスというのは、文字通り朝の着替えなどを手伝ってくれてデイサービスの送迎車に乗るまでの送り出しをしてくれる訪問介護のサービスだ。少し前から買い物代行などでヘルパーさんは利用していたので、何とか朝の送り出しサービスも調整してもらうことができた。


認知症の進行とデイサービスの変更

朝の送り出しサービス利用からさらに1年ほど経った頃、無事にデイサービスは利用できていたものの、帰宅後に不穏になって、あちこちに電話をかけようとしたり、帰宅直後から戸棚の書類を出したり入れたりする仮性作業が増えた。明らかに認知症は進んできていた。

「今のデイサービスは合っていないのかもしれない」と思い始めた。

行っていたデイサービスBは割と身体機能的にも認知機能的にも自立度の高めな方が利用されている印象があった。だから、サミーさんのように個性強めのザワザワして落ち着きのない人は浮いてしまっていたのかもしれない。たとえ認知症だとしても、多少空気は読める(もともと空気読むの苦手な人だったけど)。正しく理解することはできないにしても肌感覚で感じ取る。だとしたら、居心地悪い中で頑張っていたのかもしれない。その結果が、帰宅後の不穏だったのではないかと考えた。

今後認知症がよくなっていくことはないので、認知症対応型のデイサービスを探した。一応入所という将来的なことも見据えて、グループホームに併設しているデイサービスDへ行くことにした。
同時に土曜日のデイサービスはやめることにした。
私のモーニングコールの時間が早くなっていてしんどいのが一番だが、サミーさんの時間軸で週3回の他者との交流は少々疲れるペースになっていると判断したから。

新しいところに馴染めるかという話だが、そのころにはかなり見当識障害が進み、いったいいつどこに行っているかもよくわからなくなっていたので、さほど違和感なく変わることができた。認知症対応型と言うことで前のデイサービスよりももう少しゆったりした感じがあったし、スタッフは認知症の方のケアに長けた人ばかりだったので安堵した。

こうして認知症の進行とともに利用するサービスも変更していくこととなった。


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