【シリーズ第21回:36歳でアメリカへ移住した女の話】
このストーリーは、
「音楽が暮らしに溶け込んだ町で暮らした~い!!」
と言って、36歳でシカゴへ移り住んだ女の話だ。
前回の話はこちら↓
6月に入ると、シカゴの湿度と気温は急上昇。
最上階の私の部屋は、蒸し風呂状態になった。
根拠はなかったけれど、必ず涼しい夏が訪れる気がしていた。
ところが、涼しくなることはなく、ついに、夜も眠れない日がやってきた。
暑くて眠れないのなら、涼しい場所へ行くしかない!
エアコンがガンガンに効いた、キングストン・マインズへ、出動した。
(キングストン・マインズのことを紹介した記事 ↓)
キングストン・マインズは、エアコンが効いていて、明け方まで開いているクラブ、というだけではない。
私にとっては最も安全な場所でもあった。
キングストン・マインズが楽しくなるのは、他で仕事を終えたミュージシャンがやってきて、ジャムセッションが始まる午前2時過ぎ。
この日に限らず、私がキングストン・マインズへ繰り出すのは、夜中の12時を過ぎてからだった。
そんな時間から、ひとりで来るアジア人女性は珍しかったようで、セキュリティのお兄さんたちに覚えて頂き、仲良くなっていた。
彼らセキュリティは筋肉隆々で、仕事中はニコリともしない。
迫力満点だ。
酔っ払いが、演奏を妨害したり、トラブルを起こしかけると、ただちにやって来る。
キングストン・マインズの週末は、人気のアーティストが出演することもあり、ものすごい混雑だ。
しかも、ほぼ全員酔っ払い。
音楽を聞きたい私は、できるだけ人の少ないスポットを見つける。
けれども、酔っ払いは、どこからともなく押し寄せてくる。
押しつぶされそうになりながら、音楽を聞いていると、仲良しのセキュリティがやってきて、しばらく、私の隣に立ってくれる。
おもしろいもので、酔っぱらっていても、強面のセキュリティが登場すると、正気に戻るらしい。
私の周囲に静寂が訪れる。
本当に混雑しているときは、音響ブースへ避難させてくれることもある。
いつもよくして頂き、毎回お礼は言うけれど、仕事中の彼らと話したことはない。
彼らが、笑顔を見せることもない。
言葉も話せない私は、彼らから見ると小動物みたいなもんだ。
夜中にフラリと現れる私を、放置するわけにはいかなかったのだろう。
彼らの存在のおかげで、キングストン・マインズでは、安心して音楽を聞くことができた。
この日、店に入ると、平日ということもあり、客はほとんどいなかった。
他の方々は、シカゴの夏は暑いことを知っていて、エアコンが家にあるのだろう。
客は少なかったけれど、この日は妙にミュージシャンが多かった。
目的(?)は、日本から遊びに来ていた、ひとりの女の子だ。
サウスやウェストサイドのクラブで踊りまくっていた彼女の噂は、瞬く間にブルーズ村のミュージシャンに知れ渡った。
チコが、私に気付いて、彼女を紹介してくれた。
チコの周りには女性が、女性がいる場所には必ずチコがいる。
遊ばれるとわかっていても、近付きたくなる、それがチコ・バンクスだ。
(チコのことを書いた記事↓)
彼女は20歳代後半くらいかな?
小さくて、長い黒髪の、ピョンピョンした感じの女の子だ。
男性陣が集まってくる理由がわかるような気がした。
彼女は、日本でカルロス・ジョンソンのショウを観て、本場シカゴにブルースを聞きに来たらしい。
カルロスはマディ・ウォーターズなど、シカゴブルース草創期の、次の世代のミュージシャンだ。
これまでのシカゴブルースに、ファンキーなエッセンスを加えたギターリストで、R&Bを聞いて育った、若い世代のミュージシャンに、多くの影響を与えた。
機会があれば、是非聞いて欲しい。
カルロスは、右利きギターを逆さまにして弾く、左利きのギターリスト。
映像は2015年のもので、2008年に亡くなったチコに捧げた曲だ。
いつも朗らかで、才能あふれるギターリストのチコは、ブルーズ村のミュージシャンはもちろん、シカゴやヨーロッパのブルースファン、多くの人に愛されていた。
ちょっと長いけれど、気持ちよいので、お時間があるときにでも、是非聞いてみてください🎵
キーボードは、私の大好きなルーズベルトだ。
さて、彼女と話していると、運命の彼もやって来た。
数日前、ローザズ・ラウンジで遊んでいた彼女に会ったらしく、すでに彼女のことを知っていた。
彼女を囲んでみんなでおしゃべり・・・と言いたいけれど、相変わらず、私にワイワイする実力はない。
無理に仲間に入ることはやめて、
「楽しい!!」
と、体中で表現している彼女と、男性陣を眺めることにした。
平日の、静かなキングストン・マインズが、彼女がいるだけで、パ~ッと明るくなる。
男だけではこうはならない。
やっぱり、女性の存在は重要だな。
彼女のお気に入りはチコかな?
運命の彼にいったらどうなるか?
自分も彼女と似たようなもんか・・・。
・・・な~んてことを考えているうちに、閉店時間の午前4時になった。
外に出ると、すっかり涼しくなり、朝のにおいがした。
気持ちいいなぁ・・・これなら眠れそうだ。
皆は、引き続きワイワイしていたけれど、眺めていることにも飽きた。
彼女が彼とどうにかなったとしても、文句を言える立場でもない。
「帰りまーす」
と彼に伝え、とっとと店を後にした。
この時間だと、車もほとんど走っていない。
アパートまで15分もかからないだろう。
ダウンタウンを出て、大きくうねるカーヴを曲がった後、ちらりとバックミラーを見た。
後方に走っている車はない。
数秒後・・・
ドーーーーーーーーーーーーーッン!!!!!!
背中にものすごい衝撃を受けたかと思うと、体が宙に浮き、次にシートベルトで押し戻された体が、シートに叩きつけられた・・・。
なにが起きたんだ???
思考が働かず、ぼんやり前を見ていると、私の車の横を、2台の車がすごい勢いで走り過ぎていった。
目の前の4つのテールランプは、どんどん小さくなり、数秒後には消えて見えなくなった。
どうやら私の車は、追突されたらしい・・・。
しかも、猛スピードで・・・。