Photo by
me054100
毎週ショートショートnote「風吹けば失恋」
季節が春になろうと息を吸い込んで、
大きく吐き出したと途端
皆一様に「花粉だ！花粉だ！」
と騒ぎ出す。
私は生まれてこの方花粉症になどなったことがない。
そう言うと必ず
「いいなぁ〜」
と洪水鼻水をすすりながら言われ
「まじ！？」
と爆竹クシャミをかまされる。
実に情けない。
今年は特に花粉が大飛散しているとのことだ。
往来は何処もかしこも花粉に苦しむ人ばかり。
私はどこか嬉しくなって
軽快なステップで
マスクのしている人々の顔を覗き込み
満面の笑みを浮かべてやった。
鼻声の人やクシャミを連発する人々の目の前で
透き通るような声で歌を歌ってやった。
そうしていると向かい側の交差点の角にある薬局から
私の以前から気になっている女が出てきた。
今の私なら
あの女にも声を掛けられるかもしれない。
そう思い立ち、信号が青になった瞬間
私は女の元へと駆け走った。
だが、私が辿り着く寸前
どこからか割って入ってきた男が
「花粉症辛いよね。俺も酷いから、気持ち分かるよ。」
と言って女の肩を撫でながら
二人は通り過ぎていった。