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確かに僕はそこにいた
妻が最近、携帯で一心不乱に動画を観ていて、何を観ているのか気になってたんです。
「ママ~。何観てんの?」
「『ハイキュー!!』だよ。面白いよ~」
『ハイキュー!!』は作品名とバレーボールを題材にしていることくらいは知っていたのですが、バレーボールはあまり身近でなかったためスルーしていたアニメでした。
ただ、妻が楽しそうなのと、我が家で契約しているケーブルテレビで無料で観られる期間なことが判明したので、「いい機会だ」と思い視聴を開始しました。
いやあもう、本当に「エモ面白い」ですね。
作者の登場人物すべてに向けられる眼差しがことごとく温かく、一人一人が丁寧に描写されているんですよ。この作品が人気のある理由はここら辺なのかなと思います。
今回取り上げるのは、第1期16話の『勝者と敗者』です。
素晴らしかった~。泣きました~。
題名は『勝者と敗者』ですが、このお話でよりスポットライトが当てられたのは『敗者』の方でした。
そこでは、主人公のいる烏野高校に初戦で敗退した常波高校男子バレー部主将の池尻君と、同じく初戦で早々と姿を消した烏野高校女子バレー部主将の道宮さんが登場します。
敗退した2人の心模様は・・・。
勝ちチームとの『練習量』や『執念・熱量』の圧倒的な差を痛感しつつも、実際に負けてみると悔しさが募ります。
「レシーブ1本に、もっと必死になれてたら」
「足がもう1歩、前に出ていたなら」
「たら」「れば」の後悔の思いが次々と溢れ出てくるんですね。
この部分に、自分の経験が重なりました。
私の中学時代の部活は、ラグビー部でした。
でも本当は大好きな野球をやりたくて、入学時は野球部に入る気満々だったんです。
ただ、ここから謎の思考回路により、ラグビー部へ入部することになります。
野球部の練習をちょっと覗いた後、「練習なかなか大変そうだな」だとか、「小学校でやったソフトボールでろくすっぽヒットも打てなかった僕が、レギュラーになれるはずないよなあ」と急に弱腰になり、
「なら、限りなく部員数=レギュラー数に近いラグビー部に入れば、試合に出られるだろう」に心変わりして、ラグビー入部となりました。
結果、先輩にどんなに先輩に怒られようとも週2回しか練習に参加しない『準幽霊部員』が誕生しました。
見立て通りに部員が少なかったので、すぐにレギュラーになって試合にも出られました。
でもあんまり嬉しくはなくて、レギュラーになったからといって『週2練習』が変わるでもなく、ダラダラと3年間を過ごしました。
うちのチームは弱かったので、ほとんどの試合が負け。
ラグビーは実力差があるとびっくりするくらいの点差がつくんですけど、そんなボロ負けをした後も私は「まあそうだよね。別にラグビーなんて好きでもねえし」とあっけらかんとしたものでした。
小学⇒中学⇒高校⇒大学と、入学式・卒業式で泣いたことも一切なし。
球技大会で負けて泣いている同級生を見ても、「たかが学校行事くらいでそんなに泣きなさんなよ」と思っていました。
こうやって字面にしてみると、私なかなかの嫌な奴でしたね(笑)。
でも、事実そんな感じでした。
そして、それについて特に深掘りすることもなく過ごしてきた30余年。
そんなひねくれ倒した私の考え方の風向きを、ガラッと変える出来事がありました。
それは、日本で開催されたラグビーワールドカップ2019年大会です。
「そういえば、昔やってたなあ」と、何の気なしに観たラグビー。
これがまあ、実に面白いんですよ。
すっかり魅力されてしまいまして、日本が敗れた後も南アフリカチームを応援して、決勝でも「デクラーク!」と叫んでいる私がいました。
で、
「ラグビー。もっと一生懸命やれていたら、違う景色が見られたのかもしれないなあ」
と、「もったいなかった」という後悔のような思いが沸々と湧き出てきました。
話を『ハイキュー!!』に戻します。
『敗者』たちの物語は、こんな風に締めくくられます。
池尻「多分・・・。こんな風にあっけなく部活を終わる奴が、全国に何万人といるんだろう。何試合もある予選を全部勝ち抜いて、全国へ行って。これがフィクションだとしたら全国へ行く奴らが主役で、俺たちはエキストラみたいな感じだろうか?」
池尻「それでも・・・」
池尻「俺たちもやったよ」
道宮「私たちもやってたよ」
2人「バレーボール!」
ここで、私の涙腺は大崩壊しました。
ラグビーワールドカップ観戦時の思いがよみがえりました。
そうなんですよね。
前述の諸々は、負けて全然悔しくなかったわけではきっとないんですよ。
小学校時代のある出来事で人間不信になり、その後の学生生活を「感情に蓋をする」ことで正気を保っていた私。
その期間を『暗黒時代』と名付けて十把一絡げにしていましたが、全部が全部『暗黒』なわけではなかったんですよね。
ありがたいことに現在は家族や友人たちの愛情で、「感情に蓋をした」ことにより失われていた記憶が、少しずつ戻ってきています。
そんな記憶の一つがこんな感じです。
ある日降雨によりラグビー部の練習が中止になり、みんなで「手打ち野球でもやろう!」となりました。
うちのグラウンドは、我が校唯一の全国レベルであるハンドボール部仕様のコンクリートになっていました。
男子校のノリって、訳がわからないじゃないですか?
全員、打って走塁する度に『滑り込み』をするんです。これが、雨で濡れているからよく滑るんですよ。
試合が終わった時には、当然ながら皆びしょ濡れ。
でも、今となっては何が面白かったのか不明ですが、ゲラゲラ笑い合いながら部室へと戻ったと思います。
弱小チームの幽霊部員でエキストラもいいところだし、やっと思い出した1番のエピソードだって練習のことじゃないですけど(笑)、笑い合う部員たちの輪の中に確かに僕もいたんです。
週2回の練習しかしなかったけど、僕はラグビーを「やり」ました。
すべてを『暗黒』にしたいがための強い力で、「やった」事実や、楽しい思い出ですらも「なかった」ことにするのはもったいないし、中学生の僕もかわいそう。さらに言うなら、過去を受け入れられない今の僕だってかわいそうですよね。
ラグビーとバレーボール。現実世界と創作物。
形は違えど、共に私に豊かな示唆を与えてくれました。
ユーミンも言うように、
「目にうつるすべてのことはメッセージ」
なんですね。
「もっと必死に」「あと一歩」を頑張れる人が素敵なんだということが、今ならわかります。
「たかが」「どうせ」ばかりだった昔の自分を今一度しっかり抱きしめて、それは過去にそっと置いていければと思います。
もう「もったいない」はこりごりですから。
取り返しがつかないこともあります。
でも同時に、「人は諦めない限りは終わらないんだ」ということも大切な事実ですよね。
「一生懸命は今からだって出来る」
そんな気持ちで、これからも毎日、目一杯誘導棒を振り続けたいと思います。
さあ、「ハイキュー!!」も白鳥沢学園戦までたどり着きました。
頑張れ、烏野高校。頑張れ、僕😊