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とっても、スルメです。 -工芸の超絶技巧が想像を絶する件① 前原冬樹-

超絶技巧といえばフランツ・リストのピアノ演奏技術…だったのも今は昔。最近では、あらゆる分野で想像を絶する器用さの産物に対して超絶技巧の名が冠されている。
昨年秋、『超絶技巧、未来へ!』という展覧会を観て、現代工芸における驚異の手仕事に度肝を抜かれた。

東京での展覧会は終了したが、2024年も全国を巡回している様子なので、直近で観に行った方もおられるかもしれない。
本noteでは展覧会の図録を眺めつつ、気になった現代作家の超絶技巧工芸作品への感想をつらつらとまとめていこうと思う。

第一弾:木彫刻作家 前原冬樹

まず、こちらをご覧頂きたい。

前原冬樹 『《一刻》スルメに茶碗』
https://japanese-sculpture.com/fuyuki-maehara/works/post_8.html

スルメ。
これは紛うことなきスルメ。イカの乾物。ご丁寧に天日干し用のクリップまで付属している。
少し離れたところに割れた茶碗というか猪口のようなものが転がっており、併せて作品タイトルを表現するらしい。

どこからどう見ても乾燥させたイカそのもので、触ったら柔らかそうな質感を主張しているが、実はこれ、木製すなわちメイドフロムウッド。素材は朴(ホオノキ)とのこと。

展覧会で実物を眺めてきたが、正直「嘘でしょ?」としか思えない。ガラス越しとはいえ、間近で鑑賞した限りではパーフェクトにスルメだった。
さらに驚くことに、この作品はすべてが木製だという。つまり、スルメ本体を挟んでいるクリップも、割れた茶碗もみんな木製。
作者曰く「つながっている部分はすべて一本の木から削り出している」そうで、ふよんと投げ出された脚もクリップの錆びた輪もみんな同じ材木から削り出した一連の木工細工らしい。
ちょっとにわかには信じがたいが、メイキング動画を見る限りでは本当らしい。短い動画なのでぜひご覧ください。


前原氏の経歴は独特だ。若いころはプロボクサー、その後サラリーマンとなるも入試に挑み、30代で東京藝大にて油絵を学び始める。彫刻家として活動するようになったのは卒業後だそうだ。
ちなみに彫刻技術は独学で習得。油画科の経験は質感たっぷりの塗りに活かされている模様。
なんとも不思議な経歴。どうして最終的に彫刻を選んだのかちょっと聞いてみたい。

公式HPではスルメの他にも、だまし絵ならぬだまし彫刻作品が紹介されている。まさに超絶技巧と呼ぶに相応しい作品の数々だ。
個展へ新作を見に行きたいと思うが、出展は年に一回もない風なので、超絶技巧展で実見出来たのは幸運だったかもしれない。ちなみに、展覧会ではリアルすぎる野球グローブかすがいで固定された板、取り外されたブランコの彫刻が展示されていた。いずれもリアルすぎて、リアリティとは何だろう?と哲学的な気分になる。

現代アートというと抽象的で訳が分からない(でも何か迫力がある)ようなものも多い。前原氏の作品は具象的の極みで、けれど視覚で認識した対象とそれが木彫りであるという事実の間に深い淵がぱっくり口を開いている。感覚を事実が程よく揺さぶってくれる。その解離はやっぱりアートだな、と思う。

というわけで、眺めるだけでびっくり楽しい前原氏の彫刻作品、おススメです。近場で作品展示がある際にはぜひ、ご覧あれ。


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