窓辺を彩る鉄の花 -『台湾レトロ建築さんぽ』感想-
チャイナタウンには独特の景観がある。
その空気感を生み出しているのは日本の文字とは少し異なる漢字の看板だったり、建物に掲げられた緋色の提灯だったり、門扉を飾る招福のタペストリーだったりする。
でも、ふと思い出してみれば、窓辺を飾るデザイン豊かな鉄柵も同じくらい必須の要素ではなかろうか。
あれは鉄窓花、または鉄花窓と呼ぶものらしい。
当初は防犯目的で付けられたようだが、次第にデザイン性が増してエクステリア装飾も兼ねるようになった。
ちなみに日本では面格子、欧米ではアイアンワークなどと呼ばれている。日本でも都市部のレトロ建築でしばしば見かけるが、台湾の鉄窓花は1970年代築の民家に多いのが特徴らしい。
最近は避難路を妨げるのではないか、と取り外されることも多いという鉄窓花。安全を確保しつつ、近代建築遺産として残ってほしいところ。
これは雑多で多彩な鉄窓花に魅せられた老屋顔こと辛永勝・楊朝景さんのお二人が、台湾レトロ建築の奥深い窓装飾をテーマごとに紹介してくれる一冊。ちなみに日本での出版は三冊目になるそうな。
伝統建築とは一味違う台湾レトロ装飾を味わいたい方、中華風の背景イメージの参考にしたい方にオススメ。深く考えずに眺めるだけでも旅気分で楽しい一冊。
ページをめくっていくと、バリエーション豊かな鉄窓花の数々に驚く。単なる鉄柵にはじまり、単純な幾何学文様、鉄柵に蔓植物を絡めた意匠、富士山、花瓶などの器物、十二支の動物たち(鳥が人気だとか)、植物、昆虫、好きな曲やメッセージを鉄で表現した猛者まで!
家主の趣味もあれば、仕事を請け負った職人の創意工夫もあるそうで、細かな技法はおそらく職人の熱意が生み出したものなのだろう。無名の技術者の情熱を感じる。柳宗悦が芸術作品とは異なる美しいものとして捉えた『用の美』に近い気がする。
そもそもは日本統治時代の庁舎の装飾が源流にあるというから驚いた。確かに日本の近代建築は欧米を模したアイアンワークがしばしば見られる。言われてみれば面影がないとは言えないが…変化しすぎて土着の光景としか思えないなぁ、というのが自分の感想。
老屋顔さん(字面からなんとなく意味が分かるのが漢字文化圏の醍醐味)はメディア出演も多いらしく、ネット上には彼らの記事がたくさんある。
また、彼ら以外にも鉄窓花に魅せられた人々が情報を公開してくれている。せっかくなのでぜひ画像検索してみてほしい。