
宇宙からのメンテナンス視点で水道を徹底解説 -日本の上下水道の仕組みとは?-
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『今日から使える宇宙豆知識 by JAXAベンチャー天地人』では、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。
こんにちは!事業開発インターンの渡邊です。
今回は、私たちの生活に欠かせない 「上水道と下水道」 の仕組みについてご紹介します。
水道インフラは当たり前のように使われていますが、実際にどのような構造になっているのかを知る機会は意外と少ないのではないでしょうか?最近耳にする道路陥没の一因として、水道管の老朽化や漏水が関係していることもあります。
本記事では、上水道と下水道の管がどこに埋まっているのかという基本から、水の流れとその処理の仕組みを解説し、最後に天地人が提供する 宇宙技術を活用したインフラ管理にまで踏み込んで紹介していきます。
1. 上水道と下水道、どこに埋まっているの?
私たちは日常的に水道水を使い、生活排水を流していますが、その水がどのように運ばれ、処理されているのかを意識することはあまりありません。しかし、地面の下には上水道管と下水道管が張り巡らされ、それぞれ異なる役割を果たしながら都市を支えています。
上水道は飲料水や生活用水を安全に供給し、下水道は汚水を集めて適切に処理し、環境へ戻すという重要な機能を担っています。さらに、これらの管は単に地下に埋められているのではなく、上水道と下水道では埋設される深さが異なるという特徴があります。
しかし、上水道管や下水道管は老朽化によって破損し、漏水が発生することがあります。漏水が進行すると、地盤の空洞化が生じ、場合によっては道路陥没の一因となることもあります。特に下水道の老朽化が進むと、地中の空洞が拡大し、道路の安全性にも影響を与える可能性があります。もちろん、道路陥没はこれらの要因だけで発生するわけではなく、さまざまな条件が重なって起こるものです。
そのため、水道管がどの位置に、どのような状態で埋設されているのかを適切に把握し、定期的な点検や維持管理を行うことが重要です。
上水道と下水道、それぞれの管の構造と材質
上水道管と下水道管には、それぞれ役割に応じた材質や耐久性の違いがあります。上水道は、飲料水や生活用水を安全に供給するため、水圧をかけて水を送る仕組みになっています。そのため、水圧に耐えられる強度の高い素材が必要です。また、水圧をかけるため上水道管の直径は細くてもスムーズに流れるようになっています。
一方、下水道は生活排水や雨水を効率よく排出・処理する役割を担っています。水以外にも固形物を含むため、詰まりにくく、耐久性の高い素材が求められます。また、汚水がスムーズに流れるよう、下水道の直径は太く、管の内部は滑らかに加工されています。

上の図が示すように、上水道管は鉄やポリエチレン などの素材で作られ、一般的な耐用年数は約40年です。一方、下水道管は コンクリートや塩化ビニルなどが使われ、耐用年数は 約50年とされています。このように、水の流し方や目的の違いによって、上水道管と下水道管では使われる材質や構造が異なります。
埋設される深さの違いとその理由
上水道と下水道の管は一般的に埋設される深さも異なります。都市部では地下に電気、通信、ガスなどのインフラも埋設されているため、水道管の位置は他のインフラとの干渉を避けるように調整されています。
上水道管は地表から50cm〜1.5m程度 の比較的浅い位置に埋められます。これは、メンテナンスのしやすさや、ポンプを使った水圧管理の仕組みが理由です。
下水道管 は 1.5m〜5m以上 の深い場所に設置されます。これは、重力を利用して水を流す 「自然流下」 を効率的に行うためです。
なぜ上水道は浅く、下水道は深いのか?
上水道は 水を供給するためのものであり、圧力をかけて送る仕組みになっています。このため、あえて深く埋める必要がなく、メンテナンスがしやすい浅い位置に配置されます。
一方、下水道は 生活排水を処理場まで運ぶためのものであり、基本的に重力を使って水を流す(自然流下) 仕組みになっています。そのため、水がスムーズに流れるように、より 深い位置に埋設し、勾配をつける必要があるのです。また、寒冷地では冬場に水道管が凍結しないように、より深い位置に埋めることもあります。
地上には見えない地下の水道管ですが、その埋設の深さや構造の違いには、都市を機能させるための工夫が詰まっています。次の章では、こうした水道管を流れる水の動きについて、上水道と下水道それぞれの経路を詳しく見ていきます。
2. どこからどこへ、何が流れるのか?
私たちが日常的に使う水は、どこから来て、どこへ流れていくのでしょうか? 上水道と下水道は、それぞれ異なる役割を持ち、異なる経路をたどっています。ここでは、その流れを簡単に見ていきます。
上水道:飲料水が届くまで
私たちが使う水は、どこか遠くの水源から、長いプロセスを経て運ばれてきます。上水道の目的は、安全な水を各家庭や施設に届けることです。そのため、水は取水、浄水、配水 という3つのステップを経て供給されます。
取水:河川、湖、地下水などの水源から水を集める
浄水:浄水場で沈殿・ろ過・消毒を行い、安全な水にする
配水:配水池に貯めた後、水圧や重力を利用して各家庭へ届ける

下水道:使われた水の行き先
上水道がきれいな水を供給するシステムだとすると、下水道は汚れた水を適切に処理するシステムです。使い終わった水が川や海を汚さないように、下水処理場で浄化してから自然に戻す 仕組みになっています。主な流れは集水・輸送・処理・放流の4ステップです。
集水:家庭や工場の汚水を下水道管に集める(合流式・分流式の2種類)
輸送:勾配を利用して下水処理場へ運ぶ(必要に応じてポンプで押し上げる)
処理:沈殿・生物処理・消毒を行い、水をきれいにする
放流:浄化された水を川や海に戻す(汚泥はリサイクルされることも)

上水道と下水道それぞれに老朽化リスクがある
上水道と下水道は、それぞれ異なるルートをたどりながら水の循環を支えています。しかし、水道インフラは老朽化による漏水のリスクを抱えており、適切な管理が欠かせません。小さな漏水や下水管の損傷が、気づかぬうちに道路陥没や地盤沈下といった深刻な危機につながる可能性もあります。
自治体の上下水道課の皆さまは、住民の暮らしを守るため、日々点検や修繕を行い、時には昼夜を問わず作業にあたっています。こうした地道な努力によって、私たちの当たり前の日常が支えられています。
一方で、日本各地で老朽化した水道管が増える中、小さな異変をより早く確実に察知し、深刻な事態を未然に防ぐためには、従来の点検方法だけでは限界があります。次の章では、こうした水道インフラが抱える課題を解決するために、天地人が提供する 「天地人コンパス 宇宙水道局」 のサービスについて解説します。
3. 天地人コンパス 宇宙水道局は何を対象にしたサービスか?
上水道と下水道は、私たちの生活に欠かせないインフラですが、全国の水道管の多くはすでに老朽化しており、漏水や破損のリスクが高まっています。特に上水道管の漏水は深刻な課題であり、自治体・水道事業者の皆様にとっては、 「どの管路を優先的に点検・修理すべきか?」 を見極めることが大きな課題となっています。
そこで天地人が提供させていただいているのが、漏水リスクの診断と、点検や修理等の記録管理を支援する天地人コンパス 宇宙水道局 です。このサービスでは、人工衛星のリモートセンシング技術を活用し、「上水道の漏水リスク診断」を広範囲にわたって可視化することを可能にしています。
上水道の漏水リスク診断:宇宙技術で見えないリスクを可視化
従来の漏水調査は、道路を掘り返したり、地上から音響センサーを使って調査したりする方法が主流でしたが、これらの方法は「時間とコストがかかる」という課題がありました。

天地人コンパス 宇宙水道局は、衛星データやオープンデータ、水道管理情報や漏水履歴等の様々な情報をAI技術を駆使し、漏水リスクの診断と、点検や修理等の記録管理を支援するサービスです。
自治体が管理するエリアを100m四方の小さな区画に分け、そのエリアで漏水が起こるリスクを、5段階評価で見える化。漏水する可能性が高いエリアを絞り込むことで、優先的に調査すべき場所を簡単に見つけることができます。
実際に天地人が2022年度に行った内閣府の実証事業である豊田市との実証実験や他自治体へのヒアリングを通して、本システムに期待できる効果は点検費用が最大65%削減、調査期間が最大85%削減とされています。
4. まとめ
水道インフラは、私たちの暮らしを支える欠かせない存在ですが、老朽化や漏水といった課題が深刻化し、従来の管理手法だけでは対応が難しくなっています。特に漏水は、水資源の浪費だけでなく、道路陥没やインフラトラブルの原因となるため、今まさにより効率的で先進的な管理が求められています。
天地人の「天地人コンパス 宇宙水道局」 は、人工衛星データを活用し、広範囲にわたる漏水リスクを可視化することで、自治体・水道事業者の皆様の作業の効率化を支援するサービスです。宇宙からの視点を取り入れることで、これまで見えなかったインフラの状態を把握し、より安全で持続可能な水道管理の実現につなげることが可能になります。宇宙技術とインフラ管理の融合が、都市の未来を支える新たなスタンダードとなる日も、そう遠くないかもしれません。
(記事作成:事業開発インターン 渡邊光祐)
★天地人コンパス 宇宙水道局 特設サイト★
参考資料
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001076282.pdf
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/content/001313228.pdf
https://www.soumu.go.jp/main_content/000555182.pdf
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000195380.pdf
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201507/4.html