読書記録④二階堂奥歯『八本脚の蝶』
存在を知ったときすでに著者はこの世界にいなかった。
二階堂奥歯は1977年生まれ。
幼少時より本を愛し、小学生の頃は3倍、学生時は2倍、就職してからは1年の日数と等倍の本を読んだという。
大学卒業後、国書刊行会や毎日新聞出版局で編集者として勤務。
この本は2001年6月13日から2003年4月26日までWeb上で日記として投稿され、それを書籍にまとめたものである。
前半のファッション、コスメ、展覧会、ドール(球体関節人形、ぬいぐるみ等)書籍購入、読書録等々。時折内省的な言葉は見られるが、全般的には明るく、読まれることを意識した文章。
2002年6月から7月にかけてのトルコ旅行、そしてその後8月の転職を経て、次第に重くなっていく。
日々の記録は書物からの引用、それも終盤にいくに従って死に関する一節、聖書からの言葉が増え、彼女に多大な影響を与え精神的に支配された人からのメールや手紙が記される。
辿り着けないここではない所、女性であること、人形ではない自分、大量に購入した薬、何度かの自死と失敗、死ぬことの痛み、苦しみ、恐怖、発狂できない辛さ、街を歩いていても飛び降り死ぬに適した高さの建物を探してしまうこと、そして最期の時。
二階堂を理解してくれる人も、付き合っている男性も、導いてくれる人もいた。しかし彼女は死をもって物語を完結させた。
Web上にはまだ日記が残っており、その日記は最新更新日2003年4月26日から始まっている。2001年6月13日からの本書とウロボロスを描いているようだ。
山田正紀、ジーン・ウルフ、サド、森茉莉、岡崎京子、会田誠、恩田陸、大伴昌司、澁澤龍彦、ポトツキ、大槻ケンヂ、泉鏡花、トレヴァー・ブラウン、種村季弘、石井輝男、友成純一、荒巻義雄、トールキン、スターリング、牧野修、井辻朱美、川端康成、筋肉少女帯、人形屋佐吉、天野可淡、荒俣宏、ギブスン、いとうせいこう、ヘルムート・ニュートン、ドゥルーズ、レアージュ、ヴィトゲンシュタイン、ボルヘス、手塚治虫、ケッチャム、エンデ、江戸川乱歩、アレイスター・クロウリー、アンデルセン、高橋葉介、氏賀Y太、ロバート・シルヴァーバーグ、マーヴィン・ピーク、エディスン、山尾悠子、小松左京、ブラッドベリ、ジャック・ヴァンス、よしもとよしとも、水見稜、ダンセイニ、駕籠真太郎、ユイスマンス、黒百合姉妹、ティプトリ・Jr.、酒見賢一、松浦理英子、眉村卓、村山槐多、黒岩涙香、高原英理、津原泰水、クラーク、タニス・リー、河合隼雄、南伸坊、新井素子、飯田茂実、ラヴクラフト、カート・ヴォネガット・ジュニア
彼女の倍以上生き、彼女の影さえにも触れることができない。
なお今回見出しの画像を載せるにあたりあれこれ探していたら、当時御徒町にあったマリアクローチェで行われた天野可淡展のポストカードがあり、2002年10月12日、二階堂が訪れた同じ日に、自分も会場に居合わせたことか判明した。天野のご両親が居らしていてお話をされていた日だと思う。