No.14の幻影を追いかけて
2021シーズンがいよいよ開幕。
2連覇を達成し、30年のJリーグの歴史上2007~2009シーズンの鹿島しか達成していない3連覇を目指し進み始めた川崎フロンターレ。
ゼロックス…ではなく富士フィルムスーパーカップではリカルド・ロドリゲス体制2年目に入り成熟が進む浦和レッズに完敗(といっていいだろう)し、不安の残る幕開けとなった。
迎えた開幕戦。「Friday Night J.league」且つ「多摩川クラシコ」となったFC東京戦。
2021シーズン得点王&MVPのレアンドロダミアンが81分に決めた見事なバックヘッドにより先行、終盤の猛攻を凌ぎ切り3ポイントを得た。
新加入のチャナティップをインサイドに配置したり、大島僚太のアンカー起用、昨シーズン最終節でも見せた終盤の知念慶の左WG起用など、工夫を見せた鬼木采配。ファインセーブ連発のチョン・ソンリョン含むディフェンス陣の粘りで勝利を勝ち取ったことは非常に大きい。
翌日開催の試合で内容では圧倒したマリノスがセットプレー2発で追いつかれ、プレシーズンで川崎を破った浦和が昇格組の京都に敗れたことを考えれば、1/34とは言え開幕で3ポイントを得たことは収穫と言える。
旗手怜央が移籍し瀬古樹、チャナティップなどを補強した中盤の中でも軸として期待されるのが大島僚太と脇坂泰斗である。
前者は昨シーズン負傷に泣きリーグ戦わずか7試合の出場にとどまったこともあり再起を図るシーズンとなる。後者は今季より中村憲剛の14番を引き継いだこともあり、チームの顔となる活躍が期待される。
中でも脇坂について本稿では述べたい。No.14というのは中西哲生が1997~2000シーズンに背負いクラブ史上最初の昇格に尽力し、バンディエラ中村憲剛が2004年から17シーズンに渡って背負った。あまりに大きく、重い背番号である。
開幕戦。等々力のバックスタンドで観戦した。脇坂は攻守に走り回るもののセットプレー以外ではなかなか攻撃で変化をつけられない印象。ボールを持った瞬間、「あぁ、脇坂が14番なんだ…」という慣れないとも感慨深いとも違うなんともいえない感覚があった。
一言で言えば地味なのだ。そもそもサッカーという競技はスコアが動きにくいスポーツである。点を取る、アシストする、スーパーセーブで危機を救うという選手が目立つのは致し方ない。
しかしそういったわかりやすい、派手な類ではない何かが足りないと感じてしまった。ミスが多かったわけではない。運動量もあった。セットプレーでチャンスも演出した。守備でも頑張った。技術は遜色ないどころか前任者以上かもしれない。でももっとできる。
彼自身も76分に遠野大弥と交代となり、その遠野が決勝点をアシストするという結果を出したこともあり消化不良なのではないだろうか。
No.14のフォントが違うとか、No.8からの変化で慣れないとかそういう話ではない。開幕で感じた背番号の違和感。川崎のNo.14は決定的でなければいけないのだ。
汗をかき走り回る地味なプレーが軽視されるなんてことはない。でも求めてしまう。決定的なプレーで得点に絡み、等々力を沸かせるプレーを。
長年劇的な風景を演出してきたバンディエラの幻影が彼にはつきまとうだろう。
脇坂泰斗は背負った。単なる数字としては重過ぎる背番号を。
田中碧、三笘薫、旗手怜央とクラブを長く引っ張ると期待された若手が次々と世界に羽ばたいていくなかで、育ったクラブを背負う覚悟を決めたのだろう。
あまりに大きく、あまりに重いバンディエラの影。
その幻影を超えて行け。