『今』につながる、あの日の思い出。
「成人の日、おめでとう。大切な節目だから、なにか記念になるものを買っておくといいよ」
ちょうど10年前の今日。電話の向こうの母から受け取ったのは、こんな言葉でした。
遠方の大学に進学し、家を出て一人暮らしをしていた私。
もともと、人がたくさん集まる場所が苦手なうえ、数日後に控えた大掛かりな提出物の〆切も重なっていたので、成人式のための帰省は諦めていました。
母からの電話があったのは、課題制作の山場を越えて、ひと息ついた夜8時ごろ。なんだかしみじみと嬉しかったのを憶えています。
……だけどしかし。「記念になるもの」ってなんだろう。
当時の私は電話を切ってから、暫し考え込みました。
記念、ということは、食べ物やデータなどではなく、形に残るもののほうがいいだろうな。でも、今、特にこれといってほしいものは、ぱっと思い浮かばない。さてどうしよう。
あれこれ考えているうちに、ふと脳裏に浮かんだのが、お気に入りの本屋さんの一角。本棚と本棚の間に設けられた、ちいさなCDコーナーのことでした。
ごく小さなボリュームでサンプルミュージックが流れているその空間に並ぶのは、いわゆるヒーリング音楽やカフェ風BGMなど、おうち時間をゆったり演出してくれそうなものばかり。おしゃれなジャケットたちを見るたびにひそかに心惹かれていた、ちょっぴり大人な雰囲気の、優しくて軽やかな音楽たちでした。
あ、これだ!と思いました。
ほとんど直感に突き動かされる形で、すぐさまネットで気になるCDを探し、ぽちっと注文。わくわくしながら待つこと数日で、選んだCDが届きました。
コーヒーカップとお菓子がちょこんと置かれたジャケット写真から想像した通り、ゆったりしたボッサや落ち着くピアノ曲の詰め合わせは、おひさまの光がたっぷり差し込む休日の朝にぴったりで、たちまちお気に入りになりました。
そして同時に、このCDを迎えたことで、好きな音楽にゆったり身を任せることの心地よさ、忙しい日々の中でも時々立ち止まってひと息いれることの大切さを、体感したように思います。
ちょっと煮詰まった時、根をつめすぎた時、疲れてるな……と感じる時。
意識的に「心地よい」時間を作って自分を休ませてあげることも必要なんだなあ。今の私のスタンスにもつながる大切なことに、この時気が付くことができて良かったな、と、今はそんなふうに思っています。
* * * * *
毎年成人の日を迎えるたびに、私はこの時のことを、懐かしく有難く思い出します。もちろん今でも、これからも、そのCDはずっとお気に入りです。
あの日の母の言葉が、思いがけない直感となって今の私に繋がっているのだと思うと、なんだか不思議な感じがしますが、人生って案外、そういうことの積み重ねなのかもしれません。
この記事を読んでくださった新成人の方がいらっしゃれば、ぜひなにか「記念になるもの」を迎えてみてはいかがでしょうか。
これからの人生へ向けた、ちいさな発見があるかもしれません。