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イベント・お出かけメモ#26 刀剣-三重の刀とその刀工(三重県総合博物館)

三重県総合博物館(以下「ミエム」)の開館10周年記念・第38回企画展「刀剣-三重の刀とその刀工」に行ってきました。

館内にあったパネル

三重の刀とくれば、近年特に知名度があるのが桑名の村正で、最近の流行りどころをしっかり押さえたキャプションが楽しい(ただし、テレビドラマやアニメには詳しくないので、時々わからなくて歯がゆい時もあります)桑名市博物館では企画展毎に写真撮影OKの展示品として刀を展示してくれることが多いです。

同じく桑名の桑名宗社は、202年に「桑名総鎮守 桑名宗社(春日神社)への「宝刀村正写し」奉納プロジェクト」、2023年~2024年に「宝刀村正 研磨・写し奉納プロジェクト ~村正漆黒のヴェールを脱ぐ~」のクラウドファンディングを成功させ、特に前者のプロジェクト(私がcampfireを利用しはじめたのはまさにこのプロジェクトからでした)に関連してはNHKで「漆黒の村正 よみがえる名刀」が放送されたこともあって、桑名ゆかりの刀工である千子村正、そしてその弟子筋の刀工の刀が郷土で大事にされていたことを再認識させるとともに、妖刀イメージの払拭、そしてマルチメディア展開をしている「刀剣乱舞」の幅広いファンによる「刀」の物語を活用した観光の目玉として「村正」は注目されるようになっていると思います。今回も桑名宗社が所蔵する刀が何振か展示されていました。

週末に訪れたためでしょうか、ジブリの企画展の混雑ぶりほどはないものの、来館者は割と多めだったと思います。素敵な着物で、あるいは綺麗に着飾ったお洒落な女性たちは、単眼鏡で丁寧に鑑賞する姿が板についていましたので審神者の方々だったかもしれません。もちろん、散歩がてら来た感じの人や、刀剣ファンの高齢男性を含む、老若男女、子ども連れの方々を展示室で見かけました。

来館記念のポストカードも頂戴しました


展示は、「プロローグ」「第1章 歴史に見る刀剣」「第2章 三重の刀剣と刀工」「第3章 三重にまつわる刀剣」「第4章 拵の美」、そして「エピローグ(技術の継承と刀剣の未来)」から構成されています。

まず、「プロローグ」では、三重県内で唯一の有資格刀鍛冶(刀匠)である角谷健一郎さんの刀剣作成の過程と刀鍛冶に関するインタビューをまとめた16分の動画が流されています。刀鍛冶や刀に関わる職人さんたちのドキュメンタリーは見たことはあるのですが、一人で炭の準備を行い、一人で刀を打っているパターンは初めてだったので、見ごたえがありました。砂鉄や玉鋼が徐々に刀剣の形になっていく過程は本当に不思議です。磨きなどは別の職人さんが行うといった説明も、刀剣が総合工芸品(総合美術品と言うべきでしょうか)であることを強く思わせました。

刀に関する様々な材料、道具、そして職人さんたち、どれが欠けても作刀を続けるうえでは大変な困難が生じることになるのだろうということはわかっているつもりではありますが、それでも材料の高騰その他で、文化や伝統工芸などに関する領域では危機が近づいてきているのだろうと思いました。そういったものの「継承」のためには、長期的戦略としては関心を持つ人(特に子供や若者)を増やすことですし、より短期的な戦略としていは、今現在そういったものに関係している人を大事にすること、それをしなければ「継承」するものさえ無くなってしまうのだろうなと思いました。


とはいえ、刀を芸術品として鑑賞する際のセンスがどうにも不足しているため、今回の展示についてどの程度理解したのかは甚だ不安です。

「第1章 歴史に見る刀剣」

ここでは、「古墳時代の墳墓から出土した副葬品の大刀や、日本三大仇討ちとして有名な江戸時代の鍵屋の辻の決闘で荒木又右衛門が使用した刀を中心に、刀剣の歴史」が紹介されていました。「歴史」がコンセプトなので、具体的には古墳時代の副葬品としての太刀・江戸時代の仇討とそこで使われた刀・そして明治初期の廃刀令が展示されています。三重県伊賀市服部郷荒木村の出身(荒木は出身地にちなんだのか生来の姓は服部)荒木又右衛門の決闘の際に折れた太刀は、なかなか痛ましいです。荒木又右衛門は仇討の後、鳥取藩に引き取られるものの、到着後2週間で亡くなっている(死因不明)そうです。あと、仇討に関しては大石内蔵助の所用の刀も展示されていました。こちらは三重ゆかりか、という点ではなぜ展示されているのか不思議に思いました。

「第2章 三重の刀剣と刀工」
ここは上で述べた桑名の桑名宗社や桑名市博物館で刀を多少は見てきているので、解説などを読む際には、「あ、見たことがある」という感じで見ていました。ここは江戸時代の、村正の千子派関係(村正、正重、正真~永貞、貞利?)の刀たちです。刀としてはどっしりとした感じ、健康優良児っぽい感じ(あくまで私のイメージ)の刀が並びます。我が家は農民×米屋×僧侶(山寺の和尚さん的な)がメインで、ごくわずかに下級武士が混じる家系なので、先祖伝来の刀などはなく、中には名字帯刀を許された人がいるかもしれないけれど、多分いないな、という感じの、刀にはとんと縁がないのですが、照明を受けてキラキラしている刀を見ていると、短刀や脇指あたりなら手に入れてみたいかもしれない、という気にはなりました。しかし短刀って、「短」とある割には大きいなと思います。もちろん打刀や太刀と比べると「短」ことは明らかなのですが。

「第3章 三重にまつわる刀剣」
後半のこちらには、依頼者がはっきりしている刀、依頼を受けて三重で作られた刀などが展示されています。前の章で幕末の刀までの流れを見て、ここで時代がさかのぼる感じで、伊賀國宗近の太刀もあれば備州長船清光の刀などもあります。ここはちょっとごちゃ混ぜ感があって展示の文脈を十分に理解することができませんでした。ただ、ここでのアピールされている刀工が「大慶直胤」で、特に薙刀が力強くて良かったです。

「第4章 拵の美」
3章と4章の展示品は2章と比べるとこじんまりしていますが、細かな意匠が好きな人にはこの4章の展示は魅力的だと思います。鍔としては、「桑名鐔」「亀山鐔」が展示されていて、前者はどこかで見たことがあるなと思って後で確認すると、桑名市博物館所蔵品ばかりでした。別のところの別の展示で見たようなものたちと再会できるのはとても嬉しいことです。鍔は、今からもう四半世紀前、大阪や京都の骨董市をふらふらしていた時に何度か欲しいと思ったことは有ったのですが、手入れなどが心配で、私の身の丈には合わないかなと思って結局買ったことはありませんでした。ただ、やはりじわじわっとくる魅力があって、ひとつくらい買っておけばよかったと思いました。最近も見かけるのですが、かなり高価か、あるいは素人目にも多分そうと思う骨董風のものが多くなっていて、以前ほどの「手に入れたい」というものではないものをよくみかけます。

入口(出口)近くの「エピローグ(技術の継承と刀剣の未来)」では、再度プロローグの動画を見ても良いと思うのですが、刀剣という今ではより美術品としての立場を強めている工芸品について、それを「継承」するためにはどうすべきか、といったことを考えることを企図しているみたいでした。祭具や実用品として、あるいは祈りを託されてきた刀の魅力を今後も伝え続けるためには、わたしたちひとりひとりはどうあればいいのでしょうか。そのあたりは答えが出ませんでしたが、まずは刀にもう少し関心を持とう、各地の展示物に刀があった場合はじっくりと解説を読み、展示品を見て、知識をつけていこうと思ったりしました。


モビールは三重ゆかりの人やものたちです

2階(入口が2階)のミュージアムショップには、いつもと異なって、「刀剣乱舞」や地元企業とコラボした商品がありました。津市民としてはとてもなじみのある平治煎餅のお土産パッケージが村正さんでした。こちらは会期が終わるまでに再訪していくつか買い求めたいと思いました。気になっているのはコーヒーです。

「たなご」の説明がここにもありました

さて、今回は週末の買い物ついでに立ち寄ったため、私自身も子連れで来館しました。子どもが一番興味深かったのは「廃刀令」に関する部分だったそうです。私の3分の1以下の時間でざっと展示を見た子どもは、目下取り組んでいるらしいマインクラフトによる街並み再現に関連して、前近代の地元の姿を知りたかったらしく、保育園時代から「ミエム」には頻繁に来ていたのですが、今回初めて資料室コーナーに足を踏み入れたそうです。

そこで気になった何かをメモしたくなったらしく、しかし、資料室という場所柄、持っていた(私のカバンから持って行った)ボールペンは使えず、「詰んだ。メモできないなら頭に入れるしかないか」などと思っていたところ、各地の資料室などにお世話になることが多い親に「そこにいる職員さんに事情を話して鉛筆を貸してもらったらいいじゃない」と気軽に言われ、(いやー、そこにいるオジサンって恐そうなんだけど)と思いつつも、やはりすべてを覚えることは無理っぽいと判断して、腹をくくって筆記用具を貸してもらえないかと頼んでみたところ、思ったよりもあっさりと鉛筆を貸してもらえたのだそうです。

学芸員さんや資料館の人達は、知識を求める人には基本的に優しいし、手助けしてくれることもあるので、出来る限り丁寧に事情を説明して助けを求めたら、どうにかなるかもしれない、ということを実感したのだそうです。

「ミエムって、保育園の頃から遊びに来ているので、目新しさはないなとか思っていたけれど、今日はゲームで言えば、新しいマップを発見しました、という感じ。資料室、めっちゃ良かったー。」と帰宅後何度か言っていたので、そのぐらい強い印象を受けたみたいです。そう、あそこの資料室は三重県の公文書館機能も持っているので、適切な使い方を覚えて、がんがん利用するんだよ~と思いました。

資料室にいらっしゃった方、その節は大変お世話になりました。何かを調べる場合はとても快適な空間で調べ物ができるということを知ってしまいましたので、また足を運ぶような気がします。最低限の礼儀やマナーは教えてはいますが、何分まだ小学生のため、無知による失敗などもするかもしれません、その節はどうぞよろしくお願いいたします。

3階には中庭(フィールド?)を眺めることができる休憩スペースがあります