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イベント・お出かけメモ#22 「ミュシャ ーマルチ・アーティストの先駆者」(パラミタミュージアム)

ミュシャという名前の響きとアール・ヌーボーならではの女性×曲線×植物の魅力から、ミュシャの作品が好きな人は少なくないと思います。そして私ももちろん好きです。

私の中で、ミュシャとくれば堺・明星・与謝野晶子を連想してしまいます。通学に使っていた阪和線の堺市駅にはミュシャの看板ポスターを見かけることがあって、いつか行こうと思いながら未だに果たせずにいます。中国の長江三峡下り、シベリア鉄道でユーラシア大陸縦断など、やりたいことや見てみたいものはいくつもあって、それでも半分以上はまだ果たせていません。三峡下りは、ダムができてしまったので、見たかった景色は見ることがかなわないままになってしまいました。やりたいなと思った時には頑張ってやる方向で進めないと、どんどんできなくなってしまいそうで、ちょっと怖いですね。

堺の場合は、地元で会社を経営していた土居さんが、ミュシャの息子さんと交流があったということで作品をコレクションしており、その死後に堺市にコレクションが寄贈されたというミュシャ・ギャラリー(2000年より堺市立文化館アルフォンス・ミュシャ館)があるそうです。こちらの目玉は油絵作品などの貴重な作品があることらしいです。

昨年(2023年)と今年はミュシャに関する特別展が巡回していて、①マルチ・アーティストの先駆者 と、②アール・ヌーヴォーの美しきミューズ があり、今回のパラミタミュージアムは①、そして②については2024年12月21日〜2025年2月2日に金山南ビル美術館棟(旧名古屋ボストン美術館)で見ることができるらしい。その他に、東京府中市の府中市美術館では「市制施行70周年記念 アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界」(2024年9月21日~12月1日)が開催されているらしい。 

モネの睡蓮同様にミュシャの作品もいくつかの企画展で見ることができる贅沢な年のようです。

そしてパラミタミュージアムの企画展はチェコ在住の個人コレクター、チマル博士のコレクションを見ることができるところがポイントらしい。

パラミタミュージアムの企画展は2階の2部屋を使って行われることが多く、今回も2部屋を使い、最初の1室は「Ⅰ 挿絵画家としての出発」「Ⅱ ポスターと装飾パネル」「Ⅲ 生活のなかのデザイン」を、廊下で「Ⅲー4 プロダクト・デザイン」、そして2番目の展示室で「Ⅳ プライヴェートな生活の記録」と「Ⅴ 唯一無二のオリジナル作品」が展示されていました。

サブタイトルの「マルチ・アーティスト」の文脈としてはⅢがメインとなるのでしょう。

当時のヨーロッパの美術の中心がパリ、あるいはハプスブルク家のオーストリア帝国の首都であるウィーンに文化や人が集まるとして、そこから距離があるチェコ(当時はオーストリア帝国領南モラヴィア地方のイヴァンチッツェ)に生まれ、パトロンを得て画家を目指すも支援を打ち切られ(支援を打ち切られた理由は何なのだろうか。パトロン側の財政事情なのか、ミュシャ側に原因があったのか)、画家としては挫折したと見えるかもしれない挿絵画家としてキャリアをスタートする。

しかしミュシャはそこで終わらず、時代の流行やニーズにも応えて多様な分野で活躍し(=マルチ・アーティスト)、1918年に独立したチェコスロバキア共和国のためにデザイナー・画家として尽くし、さらに晩年に代表作「スラヴ叙事詩」という壁画サイズの一連の作品を描き上げる、といった、遅咲きというか、タフだというべきか、自分の芸術家としての人生の不易流行みたいなものをしっかり持ってそれを実現した稀有な人だというべきか。楽しそうな女性の絵から持ってしまう画家のイメージ(たとえば聖母子像とラファエロみたいなイメージ)とはかなり違う人だな、真面目で頑固でしかも商品開発やマーケティングも嫌いじゃない感じの、よくわからないけれどとにかくタフだ、というのが全体を通じての印象でした。

ついで、挿絵画家やポスター制作者としてのキャリアならではなのだろうか、印刷しやすいように線が工夫されている点もはっきりしたミュシャの作品の特徴のようでした。挿絵、雑誌などの表紙などを展示したⅠから出世作を含むⅡのポスターへ向かう作品たちの中で、女性の顔も洗練されていじきますが、必須モチーフのように植物(特に花)が描きこまれるようになったのはどの段階なのでしょうか。今回の展示からは私にはつかみ取れませんでした。

ミュシャは野の花の中でもヒナゲシが好きで、ヒナゲシを描いた作品も多く、しかも特に女性の髪にヒナゲシを飾る(描く)ことが好きだったらしいのですが、それはなぜなのでしょうか。

ミュシャのポスターではやはりサラ・ベルナールのポスターをよく見ているためか、一連の演劇ポスターはやはり良かった。

「ジスモンダ」と「椿姫」のポスター

私が一番好きなのは「メディア」ですが、今回のミュージアムグッズでは演劇ポスターでは「ジスモンダ」、それ以外では「黄道十二宮」「ビザンティン風の頭部」そして連作装飾パネル「四季」が取り上げられていて、「メディア」はありませんでした。サラ・ベルナールの「メディア」はとても存在感があるのでグッズがあるとよかったのにと思いつつ、「ジスモンダ」・「ビザンティン風の頭部」・「四季」のグッズはしっかり買いました。2個1組のゴーフルに「ビザンティン風の頭部」を選んでくれた方、ありがとうございます。2つ購入して1つは知人の来訪を待って渡す予定です。

植物の描きこみがすごい

ところで、ポスター「≪スラブ叙事詩≫展」を見ていて、こういう感じをミュシャではない誰かの作品で見たなと思っていて、帰宅後思い出しました。安彦良和さん。何となくなのでどこがどう雰囲気的にそう思ったのかと問われても困りますが。

スラブ叙事詩のポスター

マルチ・アーティストを強調した企画展だけあって、Ⅲの展示品はどれも興味深かったです。あまりにも仕事の幅が広いので、もう少し仕事を選べばいいのにと思うところはありますが、これは工房制で対応できる量だったのでしょうか。仕事を受けて、ミュシャが下絵などを考えて、デザインが完成して、そしてそれが製品化するまでに、具体的にどのような人がかかわったのか興味を持ちました。そして何よりもビスケット缶のパッケージが魅力的でした。庶民が簡単に買うことができない高級品だったと思いますが、手に入れることが嬉しくなるようなパッケージで、そりゃあミュシャに注文できるものならするよなと思ったものでした。

手前左の版木(?)のレプリカがあれば欲しいです。


二番目の展示室は、ミュシャたちの写真、そしてオリジナル作品(習作や下絵なども含む)でした。

クーエン伯爵の援助を受けてミュンヘン(後にパリ)に絵を学びに行く前は、肖像画家を副業としていたそうで、その時の作品であるバウアー夫妻の肖像画などを見ると、もちろん私は画家ではないので絵画の評価ポイントを知っているわけではないですが、画家としての才能はあるだろうけれども頭一つとび抜けていたとは言えず(上手だけれどそれだけ、と言う感じ)、その彼が一世を風靡するポスター画家(を含むマルチ芸術家)になるまでの何が彼を唯一無二の画家にしたのかが気になりました。あと、素描の作品たちは、白色ハイライトが印象的でした。ここに観衆の視点を引き付けるのだ、という強い意志を感じました。

こうした一連の作品を見ると、やはりスラブ叙事詩やミュシャがステンドグラスをデザインした聖ヴィート教会を見に、チェコに行きたくなりました。

また、今回の企画展にコラボした展示として、パラミタミュージアム所蔵のガレの作品などが2点展示されていました。両方ともかなり素敵でした。

今回の企画展に関連して、9月10日にパラミタミュージアム学芸員の青木氏によって行われた みえミュージアムセミナー「ミュシャーマルチ・アーティストの先駆者」を聞きに行っていました。ミュシャと三重の関係ということで「藤島武二など日本人画家とのかかわり」についてのお話が時間の都合で駆け足気味になっていたのが残念でした(その部分をあと30分から1時間くらい拝聴したかったです)が、企画展の目玉作品についての説明をここで聞いてから美術館に行ったので、そのあたりは良かったなと思いました。県文のイベントは仕事の関係で参加できないものが多いのですが、行けそうなイベントを探そうと思ったりしました。

なお、ミュシャとは関係がないのですが、今回スロープなどに展示されていた萬古焼は「有節萬古」の素敵な作品でした。

こちらの美術館は、企画展が行われているスペースは必ずしも広くはないのですが、その限られたスペースを上手く使って展示している点、そして何よりも全体としてゆったりした気分になることができるような工夫がされているところがとても好きです。

次は「京都の百景」だそうです。楽しみです。

サロンのテーブルや椅子がとても好きです
中庭への道。壺が良い感じです。
調子に乗って中庭を一周したところ、猛暑で存在を忘れていた蚊に献血する羽目に。


入口。ところどころに憩いの場みたいなスペースがある贅沢な美術館です。