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#12 こんなことがあった(イギリス、高齢者の散歩)
多分、2000年を過ぎたあたりのことだったと思う。
イギリス旅行中、どこかの公園で待ち合わせをしていた時のことだった。
既に何人かは集まっていて、あと数名を待っているような状態だった。
人が集まると輪になっておしゃべりが始まる。
ひととおりの社交的な振る舞いはできるものの、特に親しくもないひととのおしゃべりはそんなに得意ではなく、また、人が集まっている時はその内外両方の状況を多少なりとも把握できる場所が安心できることもあって、私が立っていたのは、おしゃべりを楽しむ人の外の円みたいな場所だった。
不意におしゃべりを楽しんでいる人たち、内側の円に位置している人が背を向けたまま私の方に一歩下がり、その接触を避けるために私も一歩下がったその先に、杖をたよりに覚束ない感じで歩いている高齢男性と、その付添の、おそらくは妻であろう高齢女性が私たちが居た場所を通り過ぎようとしていた。そこに私が一歩後ずさったことであわや接触という状況になった。
私がそのことを把握したのは、女性に肩に近いところの腕を強く掴まれた時だった。
その女性は、私の腕を掴み、私としっかり目を合わせて、「あなたはたいへん危ないことをした。彼は体が弱いの。彼は日課の散歩をしているところだった。彼にぶつかったりして彼が転倒したら極めてよろしくないことになっていた。」と、言葉遣いは非常に丁寧ながら、しかしその目は、「なんて野蛮な人なの」というように怒っていた。
確かによたよた歩いている人にぶつかって転倒したらとんでもないことになることはその時分の私でも理解できたので、謝るしかなかったが、謝罪のことばをはっきり告げても、女性はそれでも腕をぎゅっと掴んでいて、それは「許さない」と言っているようだった。
接触しかかった私が悪いことは言うまでもない。ただ、その女性の私を非難する目は今でも思い出せるほど私の傷になっている。
勿論人はいろいろ失敗して学ぶところがあるので、元気な息子が私と同じことをしでかさないように、年配の人とぶつかって転倒させたり、ぶつかりそうになって相手が避けたことで転倒することになったら、それで骨折などしたら相手が寝たきりになってしまうといった深刻な事態になるので、くれぐれも勢いよく走ってどこかに行く時は注意するように伝えている。
ただ、一人反省会を何度も、そして何年にもわたって繰り返すタイプの人間としては、私が直接の加害者になってしまっていたかもしれないことは重々承知しながらも、
だけど、私が一歩下がらなければ私の前にいた人が一歩下がっていたので私にぶつかっていたじゃないか、そんな風にぶつかった私が転倒した方が散歩をしていた老夫婦を巻き添えにしていたかもしれないじゃないか、とか、
そもそも私の前にいた人が一歩下がったのは、その人と対面していた人がその人をからかって手を伸ばしたか身を乗り出したからじゃないか、そうするとドミノ倒しのようにそもそもの原因は私の前にいた人と対面する場所にいた人じゃないか、それなのになぜその一連の行為の最初のアクションを行った人は、私の行動につながった自分の行動を意識しないし、それによって私が老夫婦と接触しそうになり、その妻側の女性から「あなたはひどい人ね」というような言葉をかけられて今に至るまでその記憶をひきずっていることを知りさえしないのだろうか、それって理不尽じゃないだろうか、
などと、えんえんとマイナスのことを考えるのであった。