Mad Scientist
※この物語はHYBE、およびBTSと何一つ関連がございません。
人々は僕を天才科学者、または変わり者と呼ぶ。
ただ、唯一の人間を除いて…。
「ひょぉぉおおん!」
僕の研究室は、壁を全て黒板に変えるために、比較的家賃の安い地下に備え付けられている。そのため、部屋に入るには長い階段を降りて来なければならないのだが、目の前で叫んでいる人間は降りてくるというより、転がり込んできていた。
「いつもいつも入りにくいんですよぉ。」
薬品の中には日光に当たるだけで変性してしまうものも多いため、僕にとってはうってつけの場所であったが、毎度都合のいいものを注文してくるコイツにとっては違うらしい。
まぁ、僕の研究が成り立っているのも、コイツの羽振りの良さがあるからだ。
黒髪に、少しつり上がった一重の目、中性的でぷっくりとした上唇が印象的な青年だ。職業柄指紋が残せないと、いつも革製の黒い手袋を身に着けている。まぁ、なんの職業をしていようとも僕には関係のないことだが。
喋らなければ、ついつい見とれてしまう美しさを身に纏っているが、僕に話しかけるときは、頭のねじが3つほど緩んでいるんじゃないかというような喋り方をする。
発想もかなり飛んでいる。ある種、幼稚園児のようだ。金属は溶かさず、ガラスのみ溶かす道具だの自分だけが眠ることのない睡眠薬だの、毎度毎度科学の常識を超えた発想で僕に物を依頼してくるのだから堪ったものではない。
だが、だからこそ、楽しんでいる自分もいる。
「で?今日はなんの依頼だ?」
僕がそう言うと、コイツはニヤニヤと金や宝石が入った袋を僕の目の前に置いた。決して軽くはない音が、研究室に響いた。
「僕を見た瞬間に、誰も攻撃できなくなるような、恐れおののいてしまうような、そんな香水を作って欲しいんです。」
「香水?」
「そうなんです。次の仕事場はなんせ人が多くって、きっと僕の事を攻撃してくる人もいるだろうから。銃の使い方は上手くないし、出来ればヒョンのお力を借りたいんです。」
喋らなければ大丈夫な気もしたが、引き受けてしまった手前やるしかない。
「正直、僕の管轄外の気もするが。」
「いいんですよ。普通の香水は機能に特化してないじゃないですか。あー、良い匂いだなぁぐらいのもので。もしも、その匂いを身に纏うことで、自分ではない者に見えたとしたら、きっと誰もが手を伸ばしたくなりますよ。」
全く、よく回る口である。
だが、確かにその通りだ。
本当に不思議だと思わないか?
これが毒になるのか薬になるのかは僕の手にかかっているということが。
僕は思わず笑ってしまった。面白かったわけではない。自分でも可笑しな発想をしているからである。
「その通りだな。」
僕がそう同意すると、コイツはいつも嬉しそうに笑う。そして、本当に時折、ドキッとさせられる表情をする。
まるで、何かを手に入れたかのような。
「ヒョン、因みにどのくらいで完成しそうですか?」
「さぁな。試作品なら1週間でできると思うが。」
コイツはごちゃごちゃになった教卓の上で、フラスコなどを倒さずに器用に寝転んだ。
まるで猫みたいだ。
「楽しみにしていますよ、ヒョン。僕の仕事はあまり長く待てないので。」
そう一言言い残すと、コイツはするりと教卓の上を抜け出して、いつの間にか階段の上へと上がっていた。
僕は小さく溜息を吐き、目の前に残された袋に目を留めた。
僕は自分に言い聞かせるように呟いた。
「始めようか?」
元の動画はこちら→BTS 2022 SEASON’S GREETING SPOT
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?