Alley Cat
※この物語はHYBE、およびBTSと何一つ関連がございません。
怪盗、Alley Cat…いつの間にかそう呼ばれるようになった。
猫のような身のこなしでどこにいるのか分からない、神出鬼没の‟野良猫”だと。
自分で名付けた訳ではないが、僕は案外気に入っている。
美しいものが好きだ。これから輝くであろうものも好きだ。別にお金持ちになるつもりなどないが、金持ちの所為で光を失っている人物がいることに、僕は怒りを覚えている。
この間、大手携帯会社にハッキングした暴力団組織が、ハッカーを怒らせたらしく、居所を暴かれた上にその会社の携帯電話を利用している人達全員に呪いのメールが届いたらしい。
携帯電話を持ち合わせていない僕にとっては無縁な話だが、僕のお気に入りのヒョンが年甲斐にもなく怖がっていたのが可愛らしかった。
天才的な頭脳を持ち合わせていて、きちんとした設備があればノーベル賞も狙えるかもしれないのに、国はそう言った未来に投資をせず、古だぬきにばかり賄賂を贈る。
美しくない。
だからこそ、僕は金持ちからお金を根こそぎ奪うのが好きだ。これから輝くであろう才能が芽吹く瞬間に立ち会うのも好きだ。
そう言えば、この間の仕事は傑作だった。新しい投資先も見つけたのだ。
時は少し遡り、僕はヒョンの試作品の香水を身に纏った。
「そうだな、僕の目には魔女に見える。」
付けた瞬間、ヒョンがそう言うものだから、僕は思わず笑ってしまった。
「魔女ですか⁉魔道師じゃなくて?」
性別をも超越する香水を作ってしまうだなんて、やはりこの人は天才である。僕がそう言うと、ヒョンは頭を抱えた。
「何故だ…。この香水を他の動物に掛けた時は、少し強そうに見えるぐらいのものだったのに…。やはり、人間は直に皮膚に当たる分、揮発性が高まってしまうのか?だとしたら、他の動物に比べて効果時間は減少してしまう可能性があるな。」
「ヒョン、難しいことは全く分かりませんが、僕は妖艶な感じですか?」
ヒョンは僕の方を見ずに答えた。
「いや、おどろおどろしくて二度と見たくないと思うような見た目をした魔女だ。その香水の効果が切れるまで、僕の目の前に現れるな。」
「そんなぁ‼そしたら、攻撃されるかも知れないじゃないですかぁ‼依頼と違うものを作らないでくださいよぉ‼」
「見ない的に球が当たる筈がないだろう。ある種、お前の望んだ通りの結果だ。」
僕はそう答えたヒョンに思わず舌打ちした。
「まぁ、良いです。僕も仕事に向かわないといけないので、このまま向かうことにします。」
僕がそう言うと、ヒョンは慌てたように声を荒げた。
「ま、待て!効果時間がどれほど持つのかも分からないのに‼」
心配するヒョンを余所に、僕は努めて笑顔で言った。
「そんなに心配しないでください、こう見えても仕事は早いんです。」
そう。早くなければ成り立たない。僕はヒョンの研究所を後にして、某議員の屋敷に忍び込んだ。屋敷ではあらゆるところから、仄暗く欝々と感じさせる音楽が鳴り響いている。その音はSPの胸元や腰回りから鳴っていた。香水を一振りすると、なぜかSPは道を開き、僕から目を伏せた。もちろん、僕にとっては都合のいい展開だった。
事前に調べておいた2階に置いてある金庫を開放すると、物音に気付いたのか一人の青年が僕の目の前に現れた。どうやら、この家で生活しているようだが、その見た目は、決してご子息という感じではない。寝ぼけ眼だった青年は、僕を見つけた瞬間に大きな目を見開いた。
「誰だ⁉」
僕は静かに、彼の口元に人差し指を置いた。黒い短髪が静かに揺れた。彼は投資に値する人物の気がする。
「綺麗で輝くものが好きだ。」
僕がそう口にすると、彼は眉間に皺を寄せた。僕は持てるだけの財宝を持ち、彼を見つめながら窓際へと移動する。
「だから…君も好きだ。」
僕はそう言って微笑むと、窓から飛び降りた。青年は何か言いたげだったが、追ってくる様子もなかった。
全く、ハッカーには感謝しなくては。
僕は次にいつ彼に会えるだろうと、戦利品を陽の光に掲げながら物思いに耽る。
元の動画はこちら→BTS 2022 SEASON’S GREETING SPOT
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