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先手番での菜々河流についての話

 この1,2ヶ月の間、指す戦法を絞っている。もともと四間をメインになんでも指していたが、対居飛車では菜々河流、対振り飛車にはショーダンシステムを採用している。もちろん相手の初手次第ではその限りではないのだけど。
 本記事では、それらのうち、先手番で菜々河流を採用した一部を振り返る。
 なお、まだわたし自身全然整理が追いついていないので、走り書きのような内容になっているけど気にするやつはおらんじゃろの精神。

◯菜々河流とは

 菜々河流、正式名称は不明だが、菜々河れいきゅん(ツイッタ垢は4月末現在休止中のためつべのほうをリンクしている)が発表した、後手番菜々河流向かい飛車のことを指している。先手居飛車が▲2五歩と決めてきたときに後手△3三角と上がる一手でしょ? と言われているのが気に食わない、という発想から、れいきゅんの先輩たちとともに編み出した作戦らしい。この記事を見にくる人で知らんひとがおったらモグリもいいところだけど、一応、詳しくは以下の記事や動画でどうぞ。
 なお、2022年にはプロ棋士の黒田さんが採用していたりする。持ち時間が短い将棋であればやってみる価値はある、と判断されたようだ。
 将棋世界1月号付録でも紹介されているのだけど、そちらの記事はどう誘導するのか不明。

 この作戦の長所の一つとして、誘導率が非常に高い、というものがある。昨今の流行のせいで、居飛車党は▲2五歩まで決めるのが主流である。ここまで先手は▲2六歩、▲2五歩、▲7六歩 の三手を指している場面が頻出であり、菜々河流はその三手に対して対応している。つまり、後手番でこそ真価を発揮する作戦だというのが、宗家の言葉である。

先手居飛車が3手、後手が3手指した局面。ここまでも、ここからも、誘導率が高い。

 しかし、ここでひねくれ者であるわたしとしては、こう考えた。

「後手番で使える作戦は先手番で使えばより有利なはずでは?」

 嘘である。
 後手番で対居飛車にこれを採用するのはいいとして、先手番でなにをすればいいかに迷ったので、どうせだったら活用できないかっていう、ずぼらな発想が根本である。
 しかし、先手番で採用するには難点がある。
 まず、相手が居飛車でないと使えないということ。居飛車が▲2五歩と決めてきた手を逆用することに重きを置く作戦であるから、対振り飛車は想定していない(はず)。となると、先手番を持つと、相手が居飛車か振り飛車か判断するためには都合が悪い。
 また、飛車先を決めて貰わないと真価を発揮しづらい、という点も上げられる。先手番で採用した際の、7七にいる金を使っての逆襲が本筋なのだが、そのためには当然△8五歩とついてもらうことが必要になる。
 さらに同様に、後手番の本家ほどの誘導率がない、という点も上げられる。先手で先に一手指しているのである。相手がおかしいことをしてきたら、ちょっと様子を見ようというのが心理だと思う。
 一般的に多く指される初手は、▲7六歩か▲2六歩。これがもし、▲1六歩や▲9六歩だとどうだろうか。採用する作戦を決めていたりしっかりした信念がある場合はそのまま△8四歩や△3四歩となるだろうが、ちょっとだけ△1四歩や△9四歩で様子を見たくなる心理はないだろうか。これと同様に、多くが7七に配置する角を6六に上がると、なにかしようとしているなと警戒することだろう。
 先手番がメリットになる、と単純に言い切れない面が、菜々河流にはあるようである(本家は後手番専用というニュアンスで話している)。
 このように先手番で採用しにくい作戦なのだが、先後で採用する作戦を変えるというのは、しばらく戦法を絞って指してみるという主旨に反していたので、どうにか先手番で使えないかと苦労している最中なのである。その軌跡を、以下見てみる。
 あ。ちなみにわたしのクエスト5分切れ負けのレートは1900台後半くらいなので、その辺りの棋力帯での木片パチパチだと想定してほしい。高段帯の意見だと多分違ってくると思うので。

◯先手番菜々河流

 このところ、仕事の昼休みに、将棋クエストの5分切れ負けを一局だけ指し続けている。そこで先手番でも菜々河流を採用しようと四苦八苦している中から、遭遇した手順を上げる。なお、初手中飛車明示や嬉野流のように特殊な手順を経るものは省く。また、一日に一局(負けて熱くなったら2,3局)しか指していないので、サンプル数が非常に少なく、昼間に当たる相手の偏りは若干あるというのは念頭に置いておくべきか。
 ちなみに本家は先手番なら、▲7六歩 △8四歩 ▲7七角 △3四歩 ▲8八飛 を始めとした角交換振り飛車など、▲7七金型の向かい飛車よりも有力な戦法があるのではとほざい仰っているが、聞く耳持たぬ。わはははは!

①▲7六歩 △8四歩 ▲7八金 △8五歩 ▲6六角

後手が飛車先を決めてくる形。体感ではけっこう指しやすい。

 2手目△8四歩は、けっこういる。けっこうというかかなりいる。そして、3手目▲7八金は、相居飛車目線だと普通の手の範疇であり、△8五歩まで指してもらえることも多い。
 ここから続く先手の二手は▲7七金と▲8八飛である。6六に出た角が目標にされるような手を指してきた場合はそちらに対応するのだが、基本的には▲7七金型の向かい飛車を目指す。逆襲の権利を握って、▲6八銀や▲4八玉などと組みにいくのが進行例。体感の勝率は悪くない。
 対居飛車の作戦ということで、先後関係なく飛車先を決めてくる相手に対しては、かなり戦いやすい印象であった。
 ここから後手は、銀を上げてくる手と角道を開ける手に分岐する。
 銀を上げる場合、△7二銀も△6二銀も同じくらい。向かい飛車にする二手のおかげで8六地点は数が互角以上になるため、基本的に単純棒銀は攻めにならない。△6四歩が後続であることが多い。
 このまま△3四歩とせずに組み立ててくる場合、緊急回避の角交換こそないものの、そこまで不満な展開にはならなかった。あるいはなっているのかもしれないが、わたしの棋力では判断できなかった。

後手の右桂を封じる▲7五歩だが、△6五歩に対し▲7五角と逃げる余地を残している、△3四歩がない場合は、この時点ではつかないほうが良いと判断している。

 角道を開ける場合は、角を追われた際に▲2二角成がある。腰掛銀から△5五銀を狙うような順には、一手速い状態で後手番と同じ展開にできるので不満はないと思う。

△5五銀を目指す順。ただし、腰掛銀まで来るのはあまり遭遇しない。6三地点で保留が多い。

 後手が飛車先を決めてから角道を開ける場合、例の形へ自然となりやすい。誘導率の高さが菜々河流のメリットの一つであったが、その形に後手が自ら突っ込んできてくれる(上に先手番なので一手指せてもいる)変化は、割りと指しやすい展開だったように思う。その割にはけっこう負けてるって? それはわたしが弱いからじゃい。うっせー。

②▲7六歩 △8四歩 ▲7八金 △3四歩 ▲6六角

△8四歩保留型。実は先後関係なく、飛先を決めない相手は苦戦する傾向がある。

 この順も多い。4手目に飛車先を決めるか角道を開けるかでいえば、こちらのほうがやや多かった気がする。
 続く6手目に△8五歩ときた場合は上の変化に合流する。ただの手順前後で、大きな差はない。
 問題になってくるのが、飛車先をこの8四で保留する場合。この展開はまだまとまりきっていない。
 向かい飛車を目指すのは変わらないのだが、▲7五歩を入れるかどうかが悩ましい。▲8六歩と突くと争点が8五地点になる都合で▲7六金まで目指したいのだが、角交換を挟んでからの△5四角が若干気になってくる。後手番菜々河流の場合と比べると、△8四歩で保留(マイナス一手)、▲8六歩で一手の二手差があり、△5四角が相対的に強くなりそう。
 居飛車と振り飛車のなにがそう違うのかという話、つまりソフトはなぜ振り飛車をあまり評価しないのかということを言語化するとどうなるのか、という話として、以下の記事がある。

 △8五歩と決まっているために、次の△8六歩を防ぐ必要があり、そのために左辺の駒組みが制限されている。角で受ける場合は角が目標になり、銀で受ける場合は玉と反対側の銀の自由度で差が出る。金で角を補助するなら玉側に使える金が減り陣形差で困る。飛車で受ける場合は△8五歩の位置が居飛車にプラスになる。雑に言うと、おそらくこういうニュアンスだと思う。
 本項目においてそれに準ずるなら、飛車先は互角、つまり飛車の働きの差はないが、その分玉の周り、1,2、3、4筋方面にかけられる手数や囲いの差(左金を左に使っている)で損をしているのではないか、ということになる。飛車先を保留されたまま進むと、苦戦する傾向にあるように思う。

③▲7六歩 △3四歩 ▲6八金

飛車先保留どころか、居飛車か振り飛車かも不明な展開。一番困る。

 2手目△3四歩もやはり多い。振り飛車を指すひともやはりいるわけで、そういう点で2手目△8四歩より若干多いくらい。
 ここで4手目△8四歩なら、以下▲6六角として合流するので問題ない。保留型だと問題はあるのだが、ここで言いたい問題はそういうことじゃないんだ。伝われこの思い。
 それよりも、この時点で後手が居飛車か振り飛車か判断がつかないということが問題なのである。
 対振り飛車では冒頭で書いたようにショーダンシステムを採用したいのだが、最序盤の数手の組み立てにおいて、この2つの戦法にシナジーがない。ここで言うシナジーとは戦法のニュアンスとかの意味合いではなく、途中まで共通であり、相手次第で分岐可能な手順であることを意味する。
 ショーダンシステムのキモの一つは▲5七銀であり、これが攻防になっている。そしてこれを目指すために早い段階で▲4八銀が必要なのだが、菜々河流にはそれがない。▲5七銀まで上がってから向かい飛車にするのはあるのだが、それでは完全に別物となってしまう。
 そこで3手目になにかいい手がないかと悩んでいたときに、我が愛しの団長にして実はのりたま師弟制度での師匠でもあるキュートフルくりこちゃんかわいいちゅっちゅに意見を頂いて、この▲6八金を採用している。
 続く4手目、後手が△8四歩ときた場合には金が7七に上がれるので上記変化に合流しやすい。これは手順前後なだけで大きな違いはない。
 それとは違い、ここで後手が△4四歩など振り飛車を思わせる手を選んだ場合、今のところ5手目は▲5六歩を採用している。居飛車で角道を止めるのはなくはないが、それでも少数派だろうという読み。ショーダンシステムの向かい飛車コースには直接いけないが、それでも近い変化に持ち込める。途中下車を挟んでの向かい飛車、手損を厭わない▲6九金などがある。
 この3手目に悩んだ理由が、相手の居飛車か振り飛車かを判断できない、という点にあった。端歩で打診すれば? というのはあるのだが、上記したように、▲9六歩を見たら△9四歩としたくなる層が一定数いる。そういう様子見には様子見で対抗してくる場合、結局なにか指さないといけないわけである。
 それへの光明として、▲6八金はあった。▲5六歩から▲5七金とする振り飛車もあるにはある。こちらはまだ採用していないが。
 この辺りのサンプルをもう少し集められたらなぁというところである。

◯まとめというか課題というか

 先手番菜々河流向かい飛車(と呼んでいいのか若干わからなくなってきている)のまとめとしては、
・後手番よりも一手得した状態で似た変化に入る
・居飛車が△8四歩で保留した場合がけっこう難敵
・角道が先の場合は▲6八金が面白いのではないか
 の3点が上げられる。保留型が本当に厄介で、後手番本家における誘導率の高さ(というか保留されたら無理しなくてもええやんの組み方が可能なこと)が非常に羨ましい。
 あと、それと別に主に2つ課題がある。
 1つ目が、持久戦模様というか飛車先逆襲の速攻ができない場合に、美濃囲いを主軸においた組み方が有効だという本家の意見があるのだが、そこへのシフトチェンジが未だにわたしは掴めていない点。角交換が常にあるので、△7九角(▲3一角)の筋が見え隠れする。これに対応するためには▲5七銀(△5三銀)を目指すと若干都合が悪い。これには振り飛車エルモというのか右エルモというのか、あの形が早囲いとシナジーがあるのではという仮説。
 もう1つが、本家はあまり遭遇していないのか不明なのだが、△5四歩(▲5六歩)型が厄介だということ。

本家の解説では▲4六歩から▲4七銀がメインであった。これはどうなんじゃろか。

 このまま▲5五歩とされると、角の捌きに若干不安が残る。△5四歩と突くと、▲4六銀から△5五歩が生じる。ということは、この時点で角交換するのだろうか? でもそれは二手損で居飛車も特に不満らしい不満のない形という感じ。なにかいい対策はあるんじゃろか。これは先手番に限らず、後手番でもよくわかっていない課題である。

 以上がこの4月に指した先手番菜々河流の振り返りである。来る5月も引き続き菜々河流とショーダンシステムを中心に指すつもりなのだが、どうなるんじゃろうね。
 これをここまで読んだ諸君の意見もあると嬉しい。なにも言わずにどこかで当たったときにわたしをカモにするのはちょっと止めてほしい。ちょっとだけ。できるもんならしてみろの精神ではいるが。

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