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【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ⑪

 シークレットなんとかいうの、おまえだろう。

 と、ダチに言われた。

 え? なんでわかるば?

 あれ、おまえの字だろ。きたねー字。すぐ分かるだろ。

 えー、とおれは思った。結構噂になってるカンジ。というか、先生のあいだでも問題視されてるとか、なんとか。

 えー。

 おれはその日、放課後、貼って回った都合90枚の瓦版を、校内から全部剥がそうと思って、あるいた。一枚もなかった。

 センコーたちが剥いだのか、はたまた噂になり、希少価値となって蒐集(コレクション)されたのか、不明だが、とにかく胸がわさわさした。

 次の日、古文・漢文のHに呼ばれた。

 おれは顔をアラバスターのようにして、国語準備室のドアをノックした。

「あなた、助動詞のテスト、2点(50点中)なんだけど」

 と、H先生。おれはホッとした。

 ひらにあやまり、平身、低頭のまま国語準備室をあとにした。

 助動詞? はあ? なにそれ。

 必要ある? あらん(ない)。アーラン。

 タイムスリップしたら、だれに会いたいか、みたいな話題がある。おれは誰にも会いたくない。小学校も、中学校も、たのしかったけど、それいじょうに大変だった。おれも大変だったし、たいへんなので、おれに関する周りの人もたいへんだったと思いう。いやなことばかり。

 おれは子どもの頃から、現実・現在にまったく興味がない。たしかに過去のほうが好きだ。文字で書かれた過去(現代語で)。だからといって、タイムスリップして誰かに会いたいかというと、だれにもあいたくない。

 なんでわざわざ、千年もまえの文字を読まないといけないわけ? なんか、必要なの? ぜったい必要ないだろ。訳せ、訳せ。ひまじんが訳せばいいだろが。

 教室棟に向かう渡り廊下から、那覇の向こう、東シナ海が見える。紺碧。あるきながら見とれる。心が吸われるような感じ。ぽーっとする。

 あの海の向こう。海の向こうに行こう。ぜったいに行こう。

 しばらくして、「シークレット・オブ・マイ・ライフ」のつづきが出ないので、まわりの人たちから、続きをかけ、と言われた。

 おれじゃないし、ととぼけたが、バレバレだった。

 とくに男が読みたがった。女も読みたがった。

 女たちは、おめ子が誰だとか、濡口紅子がそれだとか、クリトリス・ブラックの実存を確認しようと、噂話をしまくっていた。

 おれはおめ子にバレないか、ひやひやしていた。というのもおめ子は同じ高校だったから。

「JJ!」

 とある日呼ばれてふりかえると、おめ子だった。おめ子とは、3年ぐらい話していない。

 おめ子は、おれの方を見て、ニヤ―っとわらい、こぶしを突き上げて、中指を立てた。

 まあでもそれだけだった。

 いわゆる、人徳と(いう)やつだな、とおれは思った。

本稿つづく

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