![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/146485292/rectangle_large_type_2_800b6a3616126c81aead5afdb9458128.png?width=1200)
【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ⑪
シークレットなんとかいうの、おまえだろう。
と、ダチに言われた。
え? なんでわかるば?
あれ、おまえの字だろ。きたねー字。すぐ分かるだろ。
えー、とおれは思った。結構噂になってるカンジ。というか、先生のあいだでも問題視されてるとか、なんとか。
えー。
おれはその日、放課後、貼って回った都合90枚の瓦版を、校内から全部剥がそうと思って、あるいた。一枚もなかった。
センコーたちが剥いだのか、はたまた噂になり、希少価値となって蒐集(コレクション)されたのか、不明だが、とにかく胸がわさわさした。
次の日、古文・漢文のHに呼ばれた。
おれは顔をアラバスターのようにして、国語準備室のドアをノックした。
「あなた、助動詞のテスト、2点(50点中)なんだけど」
と、H先生。おれはホッとした。
ひらにあやまり、平身、低頭のまま国語準備室をあとにした。
助動詞? はあ? なにそれ。
必要ある? あらん(ない)。アーラン。
タイムスリップしたら、だれに会いたいか、みたいな話題がある。おれは誰にも会いたくない。小学校も、中学校も、たのしかったけど、それいじょうに大変だった。おれも大変だったし、たいへんなので、おれに関する周りの人もたいへんだったと思いう。いやなことばかり。
おれは子どもの頃から、現実・現在にまったく興味がない。たしかに過去のほうが好きだ。文字で書かれた過去(現代語で)。だからといって、タイムスリップして誰かに会いたいかというと、だれにもあいたくない。
なんでわざわざ、千年もまえの文字を読まないといけないわけ? なんか、必要なの? ぜったい必要ないだろ。訳せ、訳せ。ひまじんが訳せばいいだろが。
教室棟に向かう渡り廊下から、那覇の向こう、東シナ海が見える。紺碧。あるきながら見とれる。心が吸われるような感じ。ぽーっとする。
あの海の向こう。海の向こうに行こう。ぜったいに行こう。
しばらくして、「シークレット・オブ・マイ・ライフ」のつづきが出ないので、まわりの人たちから、続きをかけ、と言われた。
おれじゃないし、ととぼけたが、バレバレだった。
とくに男が読みたがった。女も読みたがった。
女たちは、おめ子が誰だとか、濡口紅子がそれだとか、クリトリス・ブラックの実存を確認しようと、噂話をしまくっていた。
おれはおめ子にバレないか、ひやひやしていた。というのもおめ子は同じ高校だったから。
「JJ!」
とある日呼ばれてふりかえると、おめ子だった。おめ子とは、3年ぐらい話していない。
おめ子は、おれの方を見て、ニヤ―っとわらい、こぶしを突き上げて、中指を立てた。
まあでもそれだけだった。
いわゆる、人徳と(いう)やつだな、とおれは思った。
本稿つづく