【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ⑲
真夏。
一度、桃子の家に行った。あ、行ったのは二度か。
最初に行った日。金持ち。リビングが視聴覚室ぐらいの大きさ。そして生活している人たちの顔がない空間。空虚。ホテルのロビーてきな。
作りつけの本棚。サイド・テーブルに資料。
おれは、ときに幻視ができる。影。男。桃子の父親。医者。できる男。
女。若い女。男のその相手。
女は母ではないし、妻でもこひぴとでもない。寄生している。比較的悪女。わるいひとではないが、根性が腐っている。
リヴィングを通って、桃子の部屋に入った。本が積み重ねられている。乱雑。比較的不潔。
ペットボトル、缶、瓶。くいものの、チリ。
おれはようやくホッとした。桃子の部屋は、桃子の感触がする。息をつく、という感じがする。
おれたちはまだまだ子どもだし、キッズ・スペースというのが必要である。
桃子のキッズ、デリケート・ゾーン。匂い立つような、おんなの子どもの臭い。
ホッとする。桃子、桃子、桃子、桃子という感じ。
おれは座った。
「いしだんみたいでしょ」
「え?」
「ううん」
桃子が缶をあけて、寄越す。ぷしゆ。
常温の缶ビール。おれ、のむ。いちょう(一応)
「うちね、こどもが居たらことがある。むかし。妊娠してある。でも、流れた。流しょう、みたいな。しかったならけん。そげんさ。おるけ、しったけ、うみおろすことは、まれならり。そけや、だいいち、いたらあることが、いみある、あるみ、まれならんぞ」
桃子は桃子の部屋に入ったので、いきなり桃子なつたのだなと思った。
桃子じらー(~のよう)と思った。
「そうか」
「しったけ、たがわの、みなみの、さんりんのきりかぶ、いま急に思い出して、しいたけのうかの、すぎの、すぎばかり、ねもとにおいてある、ねんしょうなんよ」
「うん」
何を言っているのかほぼわからなかったが、一部解ったので相槌を打った。
「おらんけ」
「うん」
「かなしょない。かしたあらんけ。そんげなつとる。きまつてある」
「?……うん」
「うるかしよらや。さら。ながして。ルーとれへんけ。だつたたた、そやろ」
「?……うん」
訛りが、どんどん、ます。
「けっした、すまざー。こ。バッドマン」
「……」
「ビギンズふつう。透析やらしょうひと、やろおる」
「ん……」
「ダーク・ナイト、すきなん?」
「え? いや。そうでもない」
「あわれ……あのしと、メメントがろおも、やったな。一番」
「え?」
「ごめん、普通に話すわ」
ベッドの上に座る、桃子はかわいかった。
本稿つづく
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