【私の病】私に現金を持たせてはいけない、助平ジジイだろこいつ……という話(後篇②)
「えっと、いいのかな。仕事は」となゆ、ではなくて私。
「いいんだよ。ここそういうお店でもあるし。のむだけでもいいけどね。のむだけなら時給1,900円。お店に1万円はらって、2時間外に出てもいいんだよ」
「払うというのはだれが払うんだ」
「お兄さん。だから、お兄さんは店に1万円払って、わたしに苺で、あとホテル代なわけ。に、なら生中でもいいよ」
「なま、なか。何かくすりをのんでいるのか、ぴる、とか」
「うん。あたりまえじゃん。のまないで生中は、アホでしょ」
「びょうきは?」
「ない。10日に検査受けた。六項目ぜんぶだいじょうぶ」
「ふーむ。きょうまでに何人客をとった?」
「んー、30人ぐらい、かな」
「ふーむ」
「びょうき、こわいの? ちなみにわたし淋病とエイズ以外は全部罹ったよ」
「いや。こわいというか。私、たぶんだけど、できないかもしれない。ここ数年、いわゆる本番行為はもちろん、おんなの体に触ったこともない。妻の介護はしているが、あれは介護だし」
「へえ。おくさん病気なの?」
「うん」
「えー、どんな?」
「うーむ。どうしようかな。いくらだっけ?」
「苺、生中なら、に。あと、ホテル代。話そらしたね。行こうよ」
「うむ。そうしようか」
「わーい」
なゆが私の左腕にだきついて、体重をのせてくる。ふにゅ、という感触。なかなか、大きなものを提げているらしい。
私たちは酒をのみおえ、勘定して、店を出た。なゆは指とゆびをからめて、私の手を握る。私は手を離し、ふつうの、握手的な感じのにぎりにあらため、父と娘が手をつなぐようにした。万が一、職務質問などされた場合、父と娘というロール・プレイングをしようという警戒心と、やっぱり、ここまで年が離れていると、父と娘だろう、あるいは姪っ子か、というような気もちだったのである。
なゆは私を先導して、色町を歩く。蒸し暑い。色町とくゆうの、静けさ。風も吹いていない。
「どこか、あてはあるのか」
「うん、すきなとこがある」
「とおいの」
「もうすぐ。あれ、あれ」
見ると、ラヴ・ホテルというより、普通の、古びたホテルだった。タイル貼り、5階建て、ホテルというか旅館、旅籠という感じ。
「しぶいな」
「ここ、いいんだよ。安いし、きれいなの」
入ると、小ざっぱりした身なりの、太っても痩せてもいないおばさんがフロントにいる。一見、普通の従業員ふうだが、色町出身者というのは目を見ればわかった。
「いらっしゃいませ」
「おばちゃ~ん」となゆ。
おばさんは微笑む。
私は休憩代1,500円を支払った。鍵というのはなく、部屋に入って内鍵をし、ヤることヤったら、あとは勝手に帰ればよいらしい。冷蔵庫にペットボトルの水があって、それはサービスとのこと。安い。なんだこの値段。
ちなみに宿泊もあるのですかときくと、ございます、3,500円です、チェックアウトは10時です、という。やっす。
私となゆは、年季の入ったエレベーターで、4階に上がり、402号室に入った。入ってすぐ、なゆが背伸びして私の口を吸った。
本稿つづく
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