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【スケッチ】不登校ここの部屋⑰不登校児の正月とは
孤独。何百年もの孤独。
部屋の四隅を同時に見る。暇だから。
凪子を思う。桃子とJJをおもう。それぞれが四隅にいる。さいごの隅はうち。わたし。
ひますぎる。
ゆく年くる年を見て、純米の酒を熱燗でのみつづけていた。いつの間にか寝て、新年が来ていた。
朝、セヴンイレヴンからおせちが届いた。
お父さんとお母さんの声がリヴィングから聞こえた。お父さんが猫を叱っている。おせちの魚類を狙っているにちがいない。
うちは中学1年生だけど、性行為をしていいのだろうか。ネットで調べてみた。ダメみたいだった。別にしたいわけではないけど。
暇すぎる。
起きてからは緑茶をのんでいる。この、緑茶というのは大量にのむと、幻覚作用がある。葉っぱにはすべて、それなりの薬物効果がある。
うちは部屋の床に大の字になってねた。
天井がぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる回っている。
蜜柑色の、清潔な天井。
曼荼羅。
宇宙をかんじる。
死をおもう。
小学校のときの予防接種で、注射をする前はそれこそ死んだ方がマシだという気持ちだった。担任の先生が背中を撫でてくれて、ちいさなうちのせなか、「だいじょうぶよ、だいじょうぶ。すぐおわるから」と言ってくれた。
チクリ。
じっさいにすぐに終わった。呆気ない。
そのときに思った。「死ぬ」というのはこういうものではないのかなって。
心配しているよりもすぐに来るし、終わる。
注射を終わったうちはまるで死者のようだった。ふわふわする廊下をあるいて、誇らしいきもちで教室まで歩いた。
通り過ぎる教室には、注射を待つ子どもたちがめっちゃ暗い顔で、番号順に座っていた。
「そんなに心配することないって。何てことはないから」
経験済みのうちは得意げだった。
「大したことない。しわさんけー(心配するな)」
とおもいながら堂々とあるいた。
死者の行進。
男子生徒が、異様にふざけていた。つくづく、男子というのは馬鹿だ。
教室には、居場所があった。うちは7番だったから、二列目の先頭の机だ。
うちは静かなきもちで座った。日のひかりがつくえの上に射して、うちのみぎてを照らしていた。みぎての内側には、机のうえの、キティちゃんの下手なラクガキがあった。
そしてうちの二の腕、ひじの裏には、注射をしたという証明のバンドエイドが貼ってあった。すこしだけ血が滲んでいた。
日蝕みたいだった。
暇すぎて、そういうことを思い出しているのだった。
本稿つづく