夏のおわりの、好きな詩…堀口大學「魂よ」
魂よ、
お前は扇なのだから、
そして夏はもう過ぎたのだから、
片隅のお前の席へ戻つておいで、
邪魔になってはいけないのだから。
魂よ、
お前は扇なのだから、
そして夏はもう過ぎたのだから、
もう一度自分に用があらうなどと
思つてはいけないのだから、
たとへ夏はまた戻って来ても
来年には
来年の流行(はやり)があるのだから。
魂よ、
お前は扇なのだから
お前は羽搏きはするが
翔ぶことは出来ないのだから、
似てはゐても
お前は翼ではないのだから。
いま時は秋なのだから
そして冬も近いのだから、
邪魔になつてはいけないのだから
お前は小さくなって
片隅のお前の位置(ありか)で
松吹く風の声と
岸打つ波のひびきに
わななきながら
聴きいつてゐるのがよいのだ。
魂よ、
お前は、
お前は、
扇なのだから。
戦ひの日、興津にて
引用は下記ページより。
管理人さんと同じく、私もこの詩を読んだのは、丸谷才一『みみづくの夢』においてです。この詩を単独で、詩集などで読んだことはありません。