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【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ⑰

  ある日、とにくやることもないので、苺、という名のゲーム・センターにひとりでいた。多少時間軸があわないが、『サムライスピリット』というゲームをしていた。

 向かい側の筐体に人がすわって、対戦を申し込んできた。受けた。中々のやり手。使い手。いい勝負だったが、3回やって、3回負けた。

 見ると、桃子である。

「も、桃子さん、だよね」と私は声をかけた。

「え、あ、はい」

 アルコールは入ってない。黒のタイトなティーシャーツとホットパンツ。

「えっと、どなた?」

「え、JJ。S高で、オナガク(同じ学年)だよ、あ、だった」

「あ、はい。ごめんなさい」

「わかんないよね。はは」

「はは、」

 桃子は眼鏡をかけており、背が高い。

「うまいね。ゲーム」

「うん。ひまだから」

 飲みに行こうか、と言おうと思って、えーと、と思った。

「飲みに行こう」

 と、桃子が言った。

 おれたちはSという居酒屋に入った。

「高校生?」と店主が言った。

「ううん。わたしは22歳。これは、弟」と桃子。

「あー、桃ちゃんか。いらっしゃい」と店主。

 まだ早い時間なので、客もまばら。おれたちはのみはじめた。

 桃子は残波という泡盛を四合ボトルでとった。おれはルービー(ビール)

 腹が減っていたので、からあげと、ソース沖縄そば大盛り。桃子は冷ややっこを注文した。

 乾杯。

 ビールをのむが、正直そんなにおいしいとは思わない。

 すぐに焼きそばが来たので、たべはじめた。からあげもきた。

「あなた、背が高いですね」

 と言って、桃子は泡盛をグラスになみなみついで、ストレートでのんだ。ごくごく、ごく。

「うん」と私。

「高校、たのしいですか?」

「もぐもぐ……ま、ふつー。もぐもぐもぐ」

 世間話。私はコーラを注文した。ごくごく、ごく。

 世間話。天候、季節。高校野球の話。ここにはいないS高のだれそれの、噂話。

 ふと見ると、泡盛のボトルはほぼ空になっている。

「桃子さん、何しているの、いま」

「勉強してるよ。通信で。大学行きたいんです」

「へえ」

「小学校の先生になりたい」

「へー」

「これ、たべます?」といって、桃子は冷ややっこの皿を寄せてくる。ほとんど食べていない。

「うん」私は食べた。豆腐はすきだ。

「出ましょう」と桃子。ボトルは空。

「うん。ちょっと」もぐもぐもぐ。私は食べ物をのこすのがきらいだ。

 ごくごくごく。コーラをのむ。ビールはのみきれなかった。

 勘定は、桃子がした。財布に万札がたくさん入っている。

「つぎ、行きます?」

 外はまだぜんぜん明るい。昼間とほとんどかわらない。

「あ、ごめん。もう帰らないと」

「うん。またこんど」

「うん。ごちそうさまでした」

「いいよ。JJ、あなたおもしろいね」

「え、ああ、そう」

「うん。たのしかった」

「こちらこそ」

 おれたちは別れた。あとになって気づいたが、桃子は美人だった。相当な美人だと思う。まあ、おれの好みは変わっていると、よくいわれるけど。

本稿つづく

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