【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ㉜
1991年7月15日。日記に書いているので分かる。
桃子には会えなかった。引っ越しの準備とか、忙しいんじゃないのかな。
昨夜は酔って、桃子の悪口をたくさん言った。だって、桃子は行ってしまうから。それがイヤだったから。わるくちをいって、いじわるをした。
「おまへ中卒じゃねえか」と言った。桃子はさびしそうな顔を一瞬した。というかおまえ(自分)もそうじゃねえかよ。
「あのなあ、高校っつうのは、勉強むずかしいぞ。関数とか、アレとか、虚数とかよ。わかってんのか?」
桃子は無表情で、ニヤっとした。
「子、」
と言おうとして、やめた。言わなくてよかった。ビールをごくごくのんだ。
桃子の顔がさっと、蒼くなった。
うわーと思った。
おれはむかしっから性格が悪い。むかしからというか生まれたときはすなおだったが、世の塵芥にさらされてすっかり、捻じ曲がってしまった。
そして口が悪い。これは赤ちゃんのときから、悪い。見てくれはそんなにわるくないんだけどな。
うわーと思った。
いい人になりたい。善良になりたい。ひとにやさしくしたい。消えてしまいたい。だれからも忘れられたい。記憶を消したい。名前を捨てたい。
おぼえていることを全部わすれたい。焼きたい。焼き尽くしたい。
自己嫌悪の一日。
ゼロになりたい。
一から出直したい。
本稿つづく
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