【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ⑱
梅雨明け宣言。
桃子とよくつるむようになった。
おれたちは、極度に馬があった。ときには、あなた、おれじゃない。あなたって、わたし? おれがあなたであなたがおれで、みたいな。
おれは「シークレット・オブ・マイ・ライフ」全8号の原稿を桃子によませた。げらげらげら、げらげら、げらげらげらげらげら、と桃子は笑い転げた。
「あー、おっかし。おもしろすぎ」桃子は涙をながしていた。
4号までは人気があったけど、5号以降はさっぱりだったと話した。
「へー、そうなの。ぜんぶおもしろいけど。あなた才能あるよ」
4号以降は、ほとんどうそを書いた、と告白した。
「ふーん。おもしろいけどね。まあ、たし🦀(かに)、リアリティはないね。でもそこもすきだけど」
「しかし、ももこはおれとばかりあそんで、彼氏がおこらないの?」
「かれし? いないよ」
「まえのあの、寺の」
「彼氏じゃないよ」
「えー、そうなんだ。ともだちなの」
「ううん。ちがうちがう。あれ弟だよ」
「あ、そうなんだ!」
弟はZZZ中の2年らしい。なんだZZZ中て、聞いたこともない。α県にあるらしい。
「貴女、内地のひとなの?」
「うん。もともとはβだけど、いまはα。まだ家あるのかな」
α? β?
「親は?」
「ここにいるよ。母さんは、死んだ」
「そうか」
豆須という名前の喫茶店にいた。おれはメロンソーダ。桃子はビールをのんでいた。
BGMで、ピアノの独奏が流れてきた。あ、聴いたことある、みたいなやつ。落ち着くようなそうでないような。どくとくの旋律。へんなかたちの家具みたい。
「じむのぺでぃ。エリック・サティ」
と桃子が言った。
「え?」
「ううん。なんでもない」
窓辺の席。桃子の顔が外光に映えて、おれのまえ、すぐそこに、よく見える。こわいぐらいに顔がととのっている。桃子はビールグラスに手をそえている。男みたいな手。節々が、ふとい。
おれの手は華奢。
そとはもうすっかり夏。どこにも行きたくない。ずっと、ずっとここに居たい。と思った。
本稿つづく
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