【読書記録】「天平の甍」井上靖
時は聖武天皇の治世、遣唐使として大陸に渡った留学僧が高僧鑑真を日本に招くという大任のため奔走する。遣唐使は10回近く派遣されているとはいえ荒海の藻屑となるリスクが非常に高く、自分の仕事が全て無に帰すかもしれない不安のもとで、それでも大陸文物や知識を日本に持ち帰ろうとする留学僧の苦難が詰め込まれている。
コテコテの歴史小説によくある流麗な流れが、漢音に溢れた文章と相まって、読んでいて心地よく感じる。
朝廷で第九次遣唐使派遣のことが議せられたのは聖武天皇の天平四年で、その年の八月十七日に、従四位上多治比広成が大使に、従五位下中臣名代が副使に任命され、そのほか大使、副使とともに遣唐使の四官とも呼ばれている判官、録事が選出された。判官は秦朝元以下四名、録事も四名である。そして翌九月には近江、丹波、播磨、安芸の四か国に使節が派せられ、それぞれ一艘ずつの大船の建造が命じられた。
(中略)
知乗船事、訳語、主神、医師、陰陽師、画師、新羅訳語、奄美訳語、卜部等の随員をはじめとして、都匠、船工、鍛工、水手長、音声長、音声生、雑使、玉生、鋳生、細工生、船勝等の規定の乗組員から水手、射手の下級船員まで総員五百八十余名。
このように不要な情報を大量に浴びせるスタイルの作品も好みである。自分では絶対に再現できないからこそ、なおのこと心惹かれる。
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