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【読書記録】「物理数学の直観的方法」長沼伸一郎

特に物理で使うような数学の諸概念で、式を追っていけば理解はできるが深く納得はしておらず、まして概念を知らない人に言葉で説明できないようになりがちなものを、まさに直観的に説明してくれる良著。特にオイラーの公式やベクトルのローテーション、フーリエ変換はぜひ読むべきである。

見た目の美しさゆえに過度に神聖視されがちなオイラーの公式 e^iπ=-1 だが、理系からしてみれば複素数を扱う際に呼吸するように使用する e^iθ = cos θ + i sin θ の特別な場合にすぎない。したがって、数式的証明を一度追ってしまえば、「いったいなぜこれほどまでに美しい式が出来上がるのか」という考えには至らなくなる。この証明は指数関数と三角関数のテイラー展開を使うのが一般である。テイラー展開も本書で直観的説明を与えられているが、それはそれとしてテイラー展開を通した証明では数式を理解し使うことはできても、腑に落ちることは少ない。結局腑に落ちないままに幾度となく使うために、その根本的な原因に疑問を抱くことを忘れてしまう。しかし本書の説明によれば、オイラーの公式は確かにこの形でなければならない。それも理系の人間からしてみれば自明な
・複素平面における角度の取り扱い
・指数関数の挙動
・指数関数の微分
という3つの初歩的な事項から組み立てられてしまう。

ベクトルのローテーションの概念はご存知の方も多いかもしれないが、ではそれをいかにしてベクトルポテンシャルにつなげるかと問われると、答えに窮する方も多いのではないか。フーリエ変換は連立一次方程式の求解に擬えるとすぐに理解できることを想像できる人がどれだけいるだろうか。

ただ本書でも強調されているように、数学的厳密性を求めるものではない。もっと言えば、著者は数学的厳密性を追求することに否定的である。したがって、物理屋にしてみれば「これが本質」と捉えても差し支えないのだが、純粋数学を楽しむ人からしてみれば、どこか歯切れの悪さを感じるものかもしれない。

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