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絶対に楽しいって思わせたい。後輩の涙で誓ったこと。


オフィスフロアの中心にある会議室は、壁一面が大きな窓ガラスになっていて、“クリアルーム”という名がつくほど、中の様子がよく見える。

日中は光が差し込み解放感のある部屋だからか、スタッフにも人気の会議室だ。




そんな明るいクリアルームの中で、ある社員の肩が震えているのが見えた。


奥には、カスタマーサービス部のリーダー奥条達也と、顔は見えないが、明らかに泣いている新入社員の中井七愛(愛称:なち)。


いてもたってもいられず、そわそわと様子を外から見守っていたのが、中井の先輩にあたる寺本詠海(愛称:えいみー)だった。


寺本はクリアルームから出てきた奥条を呼び止め、小さな声で聞いた。

「なち、大丈夫ですかね・・・?」




2024年6月。
研修期間中だった中井が、この日クリアルームで告げられていたのは、配属チームについてだった。3か月間の研修期間を経て、中井の本配属先はカスタマーサービス部になったと。


でも、中井がずっと希望していたのは、マーケティング部。
なぜマーケティング部で働きたいのか、キラキラした表情で語っていたことを、寺本は知っていた。

「だから、泣いてたんか・・・」




寺本は、カスタマーサービス部で働いて5年目になる。

この部署は、社内で唯一アルバイトスタッフが在籍していて、そのほとんどが歴の長いベテランの方たち。いつもチームの最前線でお客様応対をしてくれている。

そこに新入社員として配属になれば、コールセンターの管理者・責任者として働いていくのだ。
ベテランスタッフに囲まれ、新卒の自分に何ができるのか・・・と不安に思うだろう。

寺本自身、最初はそんな不安を抱えながらのスタートだった。

だから、中井の気持ちもよくわかる。

だけど今は、カスタマーサービス部の仕事も仲間も大好きで、やりがいをもって働けている寺本だからこそ、中井の涙に悔しさも感じていた。


「このチームでコツコツ頑張ったら、いつか仕事が楽しいって思える日が来るってことを、なちに伝えたいって思ってて。もう絶対に楽しいって言わせたろ!って。

でもそれは言葉だけじゃ伝わらないから、私が誰よりもなちのことを見て、一緒に成長を喜んで、安心してもらいながら、なちなりに頑張っていけるようにするのが、先輩として一番いいのかなって思ってます。」



そんな寺本の思いが通じたのか、涙の配属発表の翌日、中井の表情は打って変わって明るかった。


「配属を聞いたときは、自分が描いてた理想の未来から離れちゃったような気がしてたんですけど・・・全然そんなことなかったです。

アルバイトさんたちがどんな気持ちで日々お客様と向き合ってくださってるのか、商品を届ける過程の物流でどんな大変さがあるのか、今は何も知らないから・・・

そういうのをちゃんと知って、視野を広げてからであれば、マーケティング部や他のチームにいっても、幸せにできる人が増えると思えたんです。

これから100年先まで続く会社にしていきたいから、まずは今のお客様のことをたくさん知っていきたいって思ってます。」





寺本にとってはじめての後輩、中井にとってはじめての先輩。

仲間と切磋琢磨していくことが、会社の強さに繋がっていくのかもしれない。



「えいみーさん、ちょっとこのお客様の件、相談に乗ってもらっていいですか・・・?」



社長引退まで、あと945日。

つづく




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