だいすきな先輩が、いつかいなくなるかもしれない。
午前10時、オフィスのフロアにコール音が鳴り響く。
「お電話ありがとうございます。ていねい通販、中井でございます。」
電話をとったのは、中井七愛(愛称:なち)23歳。
2024年4月に入社した、ていねい通販の新入社員だ。
中井がカスタマーサービス部に配属されてから、1か月が経った頃。
手元に置かれた分厚い資料をめくりながら、お客様に伝える情報を間違えないよう慎重に言葉を選んでいく。
「・・・ありがとうございました!はい、失礼いたします。」
無事に終話したタイミングで、通話をモニタリングしながら中井を見守っていた先輩が声をかける。
「お疲れさま!さっきのお客様やねんけど・・・」
中井が対応で躓いていたところを、入社5年目の寺本詠海(愛称:えいみー)が的確にフォローする。
寺本は、後輩の中井についてこう語った。
「なちって、ほんとすごいんですよ。1日の終わりに絶対自分で振り返りの時間を作って、わからないことがあったらその日のうちに解消しようって、しっかり質問してくれるんです。かなりストイックですね。」
なぜ中井は、ストイックになれるのか。それには、意外な理由があった。
「えいみーさんが、いついなくなってもいいように・・・ってことを毎日想定してて。だってもう5年目だから、もしかしたら部署異動があるかもしれないじゃないですか?
えいみーさんから今しか学べないことってなんだろうって、今しかない時間を無駄にしたくないって、そう思ってます。」
今一緒に働いている人が、いついなくなるかわからない。
ここで働くスタッフ全員がそう思えていたら、社長は “あの決断” をしなかっただろうか。
ー
2017年6月17日。ていねい通販が20周年を迎えた日。
全スタッフが集まる宴の最後の場で、社長はこう告げていた。
「ここ数年、思ってたことがあるんです。
・・・みんな、本気でお客様に向き合ってないと思う。どっかで遠慮してると思う。みんなもっとできるはずなのに、なぜやらない?
ずっと悶々としてたけど、やっとわかった。
みんな、創業者の僕がずっとここにいると思ってるでしょ?心のどこかで、社長がいるからなんとかしてくれるって思ってる。
うちの会社は “100億企業よりも100年先まで続く会社になろう” って言ってるだろ?だったらもっとやれるって。もっとお客様を幸せにできるって。
だから僕は決めました。
10年後、会社が30周年を迎えるときに、
僕は社長を辞めます。」
怒りと愛が入り混じった表情で、みんなを信じて、伝えた決意だった。
ー
この発表があった7年前、もちろん中井はこの場にいなかった。
次期社長も決まっていない中、なぜ入社を決意できたのだろうか。
「皆さんと一緒に乗り越えてみたいと思えたんですよね。この人たちとなら、未来をつくれそうだなって。ここで働く人たちは、たとえ社長が変わったとしても、それが理由で会社を見捨てる人たちじゃないって信じられたというか。だから一緒に頑張りたいって、迷いなく決めれたんです。
そういう“信頼”みたいなものを、お客様とも築いていきたいんですよね。お電話があったときに、少しでもお客様に良い気持ちになってもらいたい。お客様との良い関わりを毎日積み重ねていけたら、3年後にはとんでもない数になってるじゃないですか?
そうやって信頼関係の土台をつくっていければ、新しい社長が生まれたとき、その環境が、新社長を支えられる土台になると思うんです。
それが、今の私にできることだと思ってます。」
入社して一年足らずのメンバーも、社長の願いを自分なりに受け取っているようだ。
ていねい通販が新たなフェーズを迎える2027年。
それまでのカウントダウンが進んでいく中で、これから社員たちはどう奮闘していくのだろうか。
つづく
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