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味世屋食堂(福島県いわき市)

幼いころ祖父母宅に行くと、よく出前のラーメンを食べさせてもらいました。呼び鈴が鳴り、玄関へ走ると、おかもちの中からラップのかぶった中華そばが顔を出す。待ちきれずにラップを外すと、鶏ダシの芳しい香り。

「旨いもの食べてるときだけ静かなんだっけ」と笑う祖父母。その横で無心に麺をすすり、一滴残らずスープまで飲み干す。これだよ、これ。数年後、そのお店はひっそりと閉店しました。

高3の冬、大学受験の真っ只中、全国ラーメンランキングがテレビで放映されていました。「自分の一番はあそこだな」と、出前をしていたあのお店を数年ぶりに思い出します。

高校卒業後、ランキングをメモした紙を握りしめ、上京と同時にラーメンの食べ歩きがスタート。「あのお店に近い味に出会えたらいいな」なんて軽い気持ちで。

それからというもの、何軒の暖簾をくぐったでしょう。都会のラーメンは食べたことがない味ばかりで、感動の連続。しかし、あの味にはなかなか出会えません。

食べ歩き開始から10年目。地元に帰省したとき、初めて『味世屋』を訪問。何気なくスープをすすった瞬間、全身に鳥肌が立ちました。〝あの味〟とうりふたつ。懐かしい記憶は、わりと近くにあったのです。

キリリとした醤油。コクのある鶏と野菜のやさしいダシ。知る人ぞ知る、隠し味のバター。この味わいこそが、あの温かい一杯でした。

ラーメンは、味だけで決まるものではありません。作る人と食べる人の〝思い〟まで含めてラーメンだと信じています。自分の原点を教えてくれるような、そんな大切なお店です。

ラーメン
チャーシューメン
みそラーメン

味世屋は、コロナ禍でも大繁盛。
土曜14時過ぎなのに、並び8人です。

おばちゃん(女将)の
「いらっしゃいませ〜」も元気そうで何より。
壁掛けカレンダーが
無駄に多いのも相変わらず。

やっぱり、すべてに味があって旨いよ。

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