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水村美苗の新刊が出ました

強がりを言っていますが、一回きりしか人間に与えられない生で、あのような男の子にあのように深く愛されることの幸せをようやくほんとうにわかってきたのかもしれません。

本格小説 下巻 p.167

写真は22年前に出版された本格小説。2002年の冬、一気に読み終えてしまった後、物語が終わってしまった事を悲しんだのを覚えている。いつまでも余韻に浸っていたかった。

当時、誰かとその気持ちを共有したかったので母に押し付けたこともよく覚えている。
「この本すごく面白かったから読んでみて。でも読み終わったら返してね。」
と返却を強要したことも。いつもなら返してねなんて言う習慣はなかったのだが、この本は絶対再読したいと思ったのだ。あの時の単行本の上下巻は今も私の本棚の定位置にある。母はやはり私と同じくこの本の虜になり文庫化されたタイミングで買い揃えていた。

水村美苗の存在を知ったのはたまたま本屋で「私小説From Left to Right」という本を手にした時だ。題名が示す通り洋書のように左から右に横書きという文体で、しかも日本語の中に英語が散りばめられている本邦初のバイリンガル小説と謳われていて興味をそそられた。

水村美苗さんは12歳の時から大学院で学位を取得するまでの10数年をアメリカで過ごした帰国子女の大先輩。異国で外国人として過ごした感覚や当時遠く離れた故郷日本に対して抱いていた憧れ、実際の日本とどんどん乖離していった、近代日本文学の中に描かれている古き良き日本に対して膨れ上がっていった憧れの気持ちが彼女の小説には反映されていて共感を呼ぶ。

もちろん帰国子女としての共通点なしでも彼女の小説は小説として十分に読ませる内容だ。私が言うまでもないのだが。

今日、用事があって母に会った際、
「水村美苗の新刊が出たみたいよ。」
という情報を得た。

その数時間後、追い打ちをかけるように別の友人、読書家でその本を見る目を圧倒的に信頼している女性からも
「水村美苗の新刊本が出ましたよ。」と言われた。

同日に2方向から同じ情報が飛んできたのでこれは本の神様が読めと言っているサインだろう。

新刊本のタイトルは「大使とその妻」。なかなかそそるタイトルだ。明日にでも本屋に行って入手せねば。

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