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吉村太郎さん - TEDxKeio High School過去登壇者インタビュー①

過去のTEDxKeio High School登壇者へのインタビュー、記念すべき第一回目を飾るのは塾高出身の吉村太郎さん。塾高時代、第二回TEDxKeio High Schoolに登壇。今回はご自身の哲学や高校時代の話、塾内の高校に通う我々への熱いメッセージを語ってくださった。


吉村太郎さんプロフィール

慶應義塾高等学校68期
塾高在学中、貝の研究をされ国際学会の最優秀賞を受賞
慶應義塾大学経済学部を卒業後、東京大学大学院理学系研究科修了
現在、東京大学総合研究博物館 特別研究員
2024年秋より英国ケンブリッジ大学へ留学中


多様性に着目した貝の研究

私の専門分野は進化古生物学です。古生物学というのは歴史的に地学の分野なのですが、私は生物学の視点からどのように生物が進化してきたのかに焦点をあて、貝の研究をしています。

なぜ貝なのかといいますと、現在の生物学の主流はDNAや分子といった、生物の普遍性の部分に着目した研究ですが、私は生物は多様性にこそ特徴があると思っているためです。また、その多様性がどのように変化してきたのかということに着目して研究しています。

そのような点で、貝は種数がとても多いので多様性が著しい。加えて非常に化石が残りやすく地球の歴史との関係性を見出しやすい。そのため私は、これら両方の側面を生かし進化古生物学という研究、多様性の研究を行っています。例えば現在貝は種で見ると20万種あるのですが、その共通する特徴から起源を分析したりしています。


空手×研究の塾高時代

塾高には中学時代の空手の実績を使って推薦入学したので、勉強は気合で頑張りました。

塾高では、小さい頃から興味があった貝殻の研究と空手部の活動を主にしていました。15時〜18時は部活。18時〜21時で貝殻の研究をするような日々でした。

研究のために地学教室に研究室のようなものを作っていただいて、そこを使わさせていただいたのはありがたかったです。

写真: 吉村さんが高校時代研究に使っていた地学教室

研究を進めていく中では論文を読まなくてはいけなかったり、書かなければいけないのですが、そのとき、語学や統計などの貝以外の知識を要求されることも多くありました。慶應義塾大学の教授方にも協力していただいたこともあります。

たとえばロシア語の文献を読む際には法学部の教授と一緒に3日間かけて一つの論文を読んだこともありました。この時感じたのは語学の知識だけでも、貝の知識だけでも論文は読めないということです。この経験が、ゼネラリストの重要性に気づかせてくれました。

そして塾高で研究を続けていく中で「二枚貝の殻には雌雄差がない」という定説を崩し、世界で初めて雌雄差を発見・証明することができました。それでマレーシアの学会発表にて高校生ながら世界一になったんです。

⚫︎マレーシアで発表された研究の電子ジャーナル
(https://academic.oup.com/mollus/article/85/2/253/5368219)

⚫︎吉村さんが発見された新種の貝「頭川巾着貝」
(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BA%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%82%AF%E3%82%AC%E3%82%A4)

写真: 塾高時代、国際学会での吉村さん

研究は楽しかったのですが、高校三年生の時、他の研究室や研究者を見るうちに「こんなことを大人になっても続けて良いものか」と葛藤したことがありました。 慶應義塾にいると全社会の先導者とか言われましたからね(笑)

皆さんにも同じような事があるかもしれません。ただ私が伝えたいのは、
「正しい道を選ぶのではなく、選んだ道を正しくするのが人生」だということです。

私は貝の研究を続けることに不安を感じたこともありましたが、このような気持ちを持って、結局続けることにしました。

そして今でも、早い高校の段階で人生を賭けるものに出会えた事が幸せだったと感じています。


スペシャリスト兼ゼネラリストへ

慶應義塾大学では経済学部に進学しました。

私は将来貝の研究を本業にするという時に、社会科学の勉強は大学時代にしかできないと考えたからこのような選択をしました。

研究者として、一般の方々の興味に応えるにはスペシャリストとしての一面と、ゼネラリストとしての一面も両方必要だと思うのです。

研究者でありながら一般的な感覚を持ちあわせているか、それこそ慶應義塾に学ぶ学生の目指すところと考えまして、私は貝の研究から一番遠い分野を学び、多様な社会の価値観を理解することを志しました。

ただ同時に、理工学部で実験もさせていただいて、通常留学生が使う制度である協定研究員として学部間を出入りしました。このようなヨコの繋がりが強かったのは慶應ならではであったと感謝しています。

写真: 経済学部生ながら古生物学会で発表された吉村さん

博物学の祖国、イギリスへ留学

2024年秋からイギリスのケンブリッジ大学に留学しています。

アメリカではなく、ヨーロッパに行くということの一つのポイントは自然科学の分野の源流になったような考え方とか、哲学みたいなものじゃないかと思っています。

私は、留学をすることには歴史を持っている国に勉強しにいく、文化を研究をしていくという意味があると思っています。そして貝の研究に限らず、研究に対する姿勢を学ぶことができるのだと思います。

私が行っている研究は博物学とも言えるものなのですが、その祖国であるイギリスに行き、その源流にある哲学を学びに行きたいのです。
研究施設やその背景にある資金力において、イギリスより優位に立つ国もありますが、私は大量にお金があっても真似できない研究が良い研究だと思っているのです。

また植民地を多く持っていたイギリスならではの、貝の化石資料の多さは貝の多様性を研究する上で魅力の一つです。例えば南米の貝とかアフリカの貝ですね。今いっても取れないものもありますし、大英博物館にしか所蔵されていないものもあるんです。


現代版「士流学者」と博物学

どんな分野に進んでも、自分の能力を活かしつつ、公益心を持って他の人の役にも立つというのができれば一番幸せだと私は思っています。

私は大学時代、福澤研究会に所属していまして、印象に残っている福澤の言葉に「士流学者」というのがあります。

ここでの学者というのは大学で学んだ人たちを指していて、学者はサムライのように公益心を持って経済活動なりにあたるべきだということを言っています。

私が現在取り組んでいる博物学というのは、知的好奇心や興味に全振りしているものも多いので、公益心とか社会的意義などと言われると少し耳が痛いこともあります。

ただ、私は研究は二つの側面があると思っているんです。研究を通じて明らかになったことをどのように社会に役立てるかという活用の面と、社会的な興味、知的好奇心に応えるという面です。

博物学だと後者に重きが置かれているのですが、私なりに考えますと、その興味に応えるということも突き詰めると社会的意義になると思うのです。

例えば貝は海の中で炭酸カルシウムを作って貝殻を作るのですが、これは海中の二酸化炭素を使って結晶化したものになるので、メカニズムがわかれば、温室効果ガスを効率的に固定化する技術に繋がり、地球温暖化の対策にもなりえるかもしれないですよね。

このように興味から生まれた研究結果も次の応用をしてくださる方がいるかもしれないので、一般の方々にも興味を持ってもらえる、面白いと思ってもらえる研究には価値があると思っています。


TEDxに参加する高校生に期待すること

いろんな分野で活躍している人が一つの環境にいるっていうのは一貫校を含めた慶應の持ち味ですね。そこをぜひ在校生の方々にも見てもらいたいです。

そして「正しい道を選ぶのが大切なのではなく、選んだ道を正しいものにする」という事を大切にして、可能性の幅が自分の考えている以上に広いことに気づいてもらえたら良いと思います。
実は私自身、貝の研究を今の年齢までやるとは思っていませんでした。将来思いもよらないようなところ、自分が思っている以上にできるようなこともあると思います。

「早い段階で興味のあるものを見つけて、長く続ける」ということも大事です。この二つができるのが慶應一貫教育校のアドバンテージだと思いますので、TEDxでみなさんがその実践のヒントを得られることを願っています。

写真: 塾高で講演をされる吉村さん

実行委員からのお知らせ

吉村さんは、大学の生物同好会というサークルとuniぼらんてというキャンパス内の整備をしている団体と一緒に日吉の森の調査をされています。
塾高生に向けた特別授業にも認められていて、土日に日吉キャンパスに貝の化石が何種類あるか調査されているそうです。

写真: 日吉キャンパスにおける調査

こちらの募集は不定期に吉村さんのinstagram(@_ytaro)で行っているそうで、是非この記事を読んでくださった皆さんも参加してみてはいかがでしょうか!塾高生でなくとも歓迎とのことです。

最後までお読みいただきありがとうございました!



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