失恋の悲しさでなく、孤独の寂しさ。 『こころ』 - 夏目漱石
裏切りに遭い、人を疑うようになる。
先生は学生時代に両親を二人とも腸チフスで亡くし、母親の言いつけ通り、叔父を頼ります。
叔父の援助で先生は東京に出て高校に通い、この頃はそんな叔父を信じ、感謝していました。
そんなある日、叔父は先生に縁談の話を持ちかけます。相手は叔父の娘、つまり先生の従妹にあたる人でした。しかし、親しくてもそこに愛情はなく、先生は縁談を断ります。
するとそれ以来、叔父をはじめ親族の態度が妙になり、先生ははじめてこのままではいけないことに気が付きます。
両親の財産について調べますが、そこで叔父が財産を誤魔化していたことが判明します。従妹との縁談を持ち掛けたのも、遺産問題を有利に進めるためです。
先生はそれ以来、叔父に限らず人を疑うようになり、故郷に帰らないことを決めるのでした。そこから先生は東京で家を探しますが、その中で下宿の話を持ちかけられます。
相手はある軍人の遺族で、奥さんとお嬢さんとの三人生活が始まりました。
Kへの嫉妬。
先生には同郷の友人にKという人物がいました。Kとは同じ学科でしたが、家族との間に不和を抱えていました。そこで先生は下宿先にKを呼び、一緒に暮らすようになります。
自分のように、Kも奥さんやお嬢さんの気持ちに触れ、快活になることを先生は期待しました。
しばらくして、Kとお嬢さんが時々二人きりになることが増え、先生は内心、穏やかではありません。先生はKに嫉妬していたのです。
すると、先生は今まで何とも思っていなかったお嬢さんを愛するようになり、Kに対抗心を抱きます。
ある日、Kからお嬢さんへの恋心を打ち明けられます。
それに対して、先生は自分も同じ気持ちであることを伝えることができませんでした。しかし幸いなことに、Kは先生以外にこのことを打ち明けてはいません。
そこで先生は、Kの話を伝えずに奥さんにお嬢さんを妻としてくださいと直談判します。
いくつか質問があったものの、奥さんはその話を了承。お嬢さんにも伝えられ、知らないのはKだけです。
一生の後悔を背負い続ける。
先生はKを出し抜くことに成功しますが、今更になって良心が痛み、このことをKに伝えられずにいました。
結局、奥さんからKに伝えられ、Kはおめでとうございますと言ってくれます。
いつもと変わらない様子に、先生はホッとします。
ところが二日後、Kはナイフで頸動脈を切って自殺してしまいました。
先生の宛ての手紙が残さていましたが、先生への恨み言などはなく、将来に望みがないから死ぬのだとだけ書かれていました。
しかし、お嬢さんの名前だけがそこにはなく、Kがあえて回避したことは明白です。
先生はあらゆる人たちからKの自殺した理由についてたずねられますが、答えることができませんでした。
その後、先生たちはKの自殺した夜のことを思い出さないように引っ越し、先生とお嬢さん、つまり今の妻である静は今の家に移り住みます。
結婚後、先生は静の提案で一緒にKの墓参りに行きますが、Kの命と引き換えに静を得たも同然の先生にとって、これほど辛いことはありません。
これ以来、先生は二度と静と一緒にKの墓参りをすることはありませんでした。
失恋の悲しさでなく、孤独の寂しさ。
先生はいつまで経ってもKのことを忘れられず、静と顔を合わせると、いつでもKに脅かされます。
こういった理由から先生はたまに静を遠ざけ、理由を知らない静は自分の何がいけないのかと苦しみます。
先生もそれに気が付き、何度も静に打ち明けようと思い、しかし出来ませんでした。
静の記憶に嫌なものを残したくなかったのです。
先生は後になって、Kの自殺した理由を振り返ることがありました。
最初は失恋のせいだと考えましたが、やがてたった一人になって寂しくなったから自殺したのではないかと疑います。
そして、その孤独を先生も抱えていました。
やがて先生は、人間の罪という大きなものに囚われ、そのせいで毎月にKの墓参りをしたり静に優しくするようにしていました。
乃木大将が亡くなり、先生はついに自殺を決意したのでした。
個人的感情→人間の罪
なにを伝えたかったのか。妬みなどの個人的の感情はいつの間にか人間の罪に変わること。
利己心、嫉妬心は誰でもいつにおいても、罪に変わりうる恐ろしさを描いているのだろう。