【後編】エン・ジャパンのプロダクトマネージャー・岡田康豊が語る 人材業界&HR TechにおけるDXのあるべき姿とは
大手求人情報サイトの「エン転職」をはじめ、「engage」「HR OnBoard」「Hirehub」などさまざまなHR Tech関連のサービスを展開するエン・ジャパン株式会社。いまやHR領域におけるデジタルトランスフォーメーション(以下DX)推進のトップランナーといっても過言ではありません。その本丸ともいえる開発チームを率いてきたのが、デジタルプロダクト開発本部長・プロダクトマネージャーを務める岡田康豊さんです。
インタビュー前編では、人材業界におけるDXや岡田さんのご経歴だけでなく、ご自身の転職時の失敗体験についても赤裸々に語っていただきました。
後編となる本稿では、岡田さんが大切にされているプロダクトマネジャーとしての心得やそれを形成する経験、また必要なスキルについてお話いただきます。
エン・ジャパン入社半年で手がけたプロジェクトが大失敗!
――エン・ジャパンに入ってからは、プロダクトマネージャーとして活躍されるわけですよね。
岡田:そう……と言いたいところなんですけど、入社半年で手がけたプロジェクトが大失敗しました。「エン派遣」というWebサイトのリニューアルプロジェクトだったんですけれども、リニューアル後に三日間ぐらいサイトが停止しちゃったんですよね。あの頃を思い出すと、今でも胃がキリキリします(笑)
そのときは営業と同行してお客さまの元に謝罪に伺いました。でもオフィスにも入れてくれなくて。道ばたで頭を下げていました。社内では、何十人もいる営業の前で「すみません」と頭を下げたり……いろんなことをしました。
――それは……壮絶ですね……。
岡田:リニューアルの進め方や進捗の状況を見ていると、「これはまずいぞ」という経験的な予感はあったんですね。一度はそれをミーティングの場で進言したんですけれど、「このままで問題ない」という結論になり、それに対しておかしいと言い切れなかった。みんなが大丈夫だと言うんなら大丈夫だろ――そう思って見ていたら、予想どおりの大コケに。そこからはもう地獄です……。
Webの世界で少なからず働いてきて自分の経験や勘所って、ある程度あるはずなんですけれど、それを信じることができなかった。いまでもそれを後悔しています。
――業種や業界を大きく変えた直後ですし、難しいところですよね。
岡田:それもありましたね。落ち着いたあと、あらためてそのことを振り返って、「自分自身で自分を否定する必要ない」と思ったんですよね。間違っていれば、ほかの誰かが指摘してくれるから。でもそのときは自分自身で自分を否定してしまったんですよね。業界が変わったり、前の転職が失敗だったりということもあって……。
でもそのとき、今の部署の人たちが、リニューアルの復旧作業を手伝ってくれたんです。中には徹夜して手伝ってくれた人も何人かいたりして。それまでは席が遠いとか物理的な理由もあって、僕の中にあまり仲間意識はなかったんです。でもこのトラブルをみんなで解決していくなかで、はじめてエン・ジャパンという会社の一員になれた気がしたんですよね。
――おお、よかった……。この経験を通して、岡田さんのなかで仕事のやり方やあり方が変わったところはありますか?
岡田:いまではある程度自分を信じようと思っています。もう少し具体的に言うと、自分を信じるって「恐れずに意見を発すること」なのかな。間違っていたら誰かが否定してくれるわけですから。
自分を信じた上で最後まで意見を言い切れる
岡田:失敗の話、もう一個言っていいですか?(笑)エン・ジャパンでの話ではないんだけどね。
――ははは(笑) ぜひお願いします!
岡田:複数のサービスに跨ぐあるプロジェクトで、僕は一つの部署の開発リーダーを担当していました。そこでプロジェクトにおける開発の費用対効果やROIはどうなるかを含め、試算してみてくれと言われたんですね。
――試算した結果はどうだったんですか?
岡田:僕の試算では、儲からないし、たぶんあまり意味もないから「やらないほうがいい」という結論になりました。そう伝えたんですけれど、「これは会社としてやることだから」と言われてしまったので、やってみることにしました。儲かる絵になるように、鉛筆をなめながら事業計画書を書いたりしてね。
――そのプロジェクトは実際にやったんですよね。
岡田:やりましたよ。やっぱり全然効果がないどころか価値毀損のほうが多かったので、結局プロジェクト前の状態に戻しました。で、数年後、上司にこんなことを言われたんですね。「岡田さんはあのプロジェクトの件、どうして進めようと思ったの?」って。
――それはひどい(笑)
岡田:会社側の依頼だったとしても、プロダクトマネージャーやディレクターとしてプロジェクトを任されたら、最終責任や評価は自分にかかるんだって気付いたんです。だったら、自分が最後の砦だって意識を持って、最後までちゃんと言わなきゃいけなかったんだって、すごく反省しました……。
――任された仕事だったとしても、主体性を持って取り組まないといけないと。
岡田:そうなんですよ。先ほどの話と共通するのは、自分を信じた上で最後まで意見を言い切れるかが、プロダクトマネージャーにとって欠かせない素養だということ。僕は自分のことを「意志の弱い人間」だと評価しているので、そうならないように、この失敗を生かさないとなといつも思っていますね。
――岡田さんでさえ大きな失敗を経験したという事実は、プロダクトマネージャーの皆さん、勇気づけられると思いますよ。
岡田:はは(笑) 失敗だらけですよ、本当に。
――でも、「危ない」と思っていても、それだけで組織の意向を押し返すのは難しいですよね。
岡田:でも、「なんであれやったの?」なんて言われないくらいには、上司や組織の記憶に残しておきたいですよね(笑) 一方で、「やるからには成功まで持っていく」という覚悟もプロダクトマネージャーには必要だと思うんですよね。「私関係ないよ」なんてスタンスでいちゃいけない。
プロダクトマネージャーに必要なスキルと岡田さんの強み
――プロダクトマネージャーには、開発、ビジネス、グロース、デザインなどさまざまな能力が求められると思いますが、岡田さんはご自身の強みはどういったところにあるとお考えですか?
岡田:僕自身の強みは、開発やデザインよりはもう少し上のプロジェクトマネジメントであったり、HRなどビジネス面での知見に寄ってきているなと思っています。プロダクトマネージャーを見るマネージャー的な立場でもあるので、ビジネスを推進するところに軸足が移ってきていると感じています。
▼岡田さんは、働いているメンバーが日々意識しやすいように、独自でプロダクトマネージャーの必要スキルを可視化した、PM SkillChart HEXを作成
――開発やデザイン面は、ご自身でどのように評価されていますか?
岡田:もともと制作会社で働いていたので、デザインや開発の基本的なところは理解していると、自分で評価しています。 あとは、「若い者に負けてたまるか」という気持ちもありますね。デザインや開発のスキルや見識で置いてけぼりにもなりたくないし、負けたくもない。
ただ、職場ではなかなか触れられないので、自宅で遊んだりキャッチアップしたりしています。
デジプロではスピード感を持ってマーケットに対応するため、開発のインハウス化をミッションの一つに掲げていますが、これを進めるには僕に知識がないとお話になりませんし。
――岡田さんのような立場ですと、学ぶ時間を確保するのってなかなか難しいんじゃありません?
岡田:時勢の影響で勤務形態が在宅勤務にシフトしたのがいい機会になりましたね。通勤時間が全部、仕事か勉強の時間に変わりました。だから余裕を持って自己研鑽に取り組めています。朝起きて、仕事の前の時間を勉強に充てて、夜も仕事が終わったらプログラムを書いて遊んだりして。
開発の現場にいると、「置いていかれたくない」って不安は常に隣り合わせにあります。
――「置いていかれたくない」というのは、同僚に対して? それとも市場のトレンドに対してそう感じているのでしょうか?
岡田:うーん、市場のトレンド……ですかね。外に通用する人材として自分を保っておきたいので、会社の中ではなく外とを常に意識していますね。技術系のニュースやブログを見たり、話題になっているオンラインの講座を買ってみたり、分からないところは調べながら自分で手を動かして試してみたり。
DXやデジタルは課題解決のための手段
――組織やプロダクトでDXを体現するには、専門分野や組織の垣根を越えていく「越境者」の存在が不可欠だと思うんですよね。岡田さんの場合は、ビジネスと開発の領域を行ったり来たりしながらDXを実現しているわけですが、「越境」の重要性について岡田さんはどのようにお考えを持っているか、教えていただけますか。
岡田:開発とビジネスだけにかかわらず、相手の置かれている環境から見える世界を理解するには、自分も同じ環境に飛び込んでみることがすごく大事なんですよね。
たとえばプロダクトマネージャーの多くはセールス、ものを売ることはできませんよね。でも、営業同行した上で企業の声を聞くってことはぜんぜんできると思うんです。
――プロダクトマネージャーって、営業の素養も必要なんですね。
岡田:必要です。すごい必要。でも、それって自ら取りにいかないと身につかないんですよ。顧客の声をしっかり聞いたり、相手がいいと思うものをしっかりと提供して売るという行為は、課題解決という意味だとプロダクト作りも同じなんですけどね。
だから、プロダクトマネージャーにはセールスの経験とまでは言わないまでも、同じ目線でプロダクトを見る経験は必要かなと思います。そういうふうに自らがその場に立った上で世界を見ることは、常に心がけたほうがいいですよね。
――セールス以外の領域でも、同じことが言えそうですね。
岡田:そうですね。ユーザーから寄せられる声なんかも、ただ数字だけ見ていてはあんまり意味がないと思っています。実際に電話を受けるとか、メールに返答するとか経験すると見えてくるものもあるでしょうし、自分の枠を飛び越えて、肌で人の意見や声を感じることが大事になるんじゃないかな。
――最初のプロジェクトで営業さんと一緒にお詫びにいった経験なんかも生かされていそうですね。
岡田:そうですね、大きいと思います。だって謝りに行きたくないんですもん(笑) 夏のうだるような暑さの中スーツを着てね……。あのときはよく逃げなかったなって、そこだけは自分をほめましたよ。
――それはもう、できれば経験したくないですよね(笑)
岡田:でもその時、「自分、修羅場好きなんだな」って思いましたね。いまでもトラブルが起きるとアドレナリンが出て、集中力がぐっと高まるんです。プロダクトの担当者は、誰よりも冷静じゃないといけないと思っているので。
――修羅場が好きなのか、修羅場を乗り越えたあとの快感が好きなのか……。
岡田:正確には後者なんじゃないですか(笑) 価値を感じられるんでしょうね、修羅場にいる自分に。「これは僕が抑えられる」という気持ちで、いつも修羅場に相対しています。
「誰の何の課題を解決するか」を定義するのがプロダクトマネージャー
――最後に、これからDXに奮闘する皆さんに向けてアドバイスのメッセージをいただけますか。
岡田:「DX」という言葉をバズワードで終わらせてはいけないと思うんですよね。
DXで何がしたいかというと、プロダクトの提供価値をスピード感を持って実行していく、変革していくことだと思うんですよね。そのためには、プロダクト開発のインハウス化・内製化は欠かせないと思っています。
でもこれって簡単にはいかないんですよね。社内の意識変革や組織変革はもちろん、誰を評価し、何を評価するのかといった、人材の評価軸も変えていく覚悟が必要になるんじゃないでしょうか。
――DXにおけるプロダクトマネージャーの役割とはどこにあるのでしょうか?
岡田:DXと直接関係するか分かりませんが、プロダクトマネージャーの役割って課題解決だと思っているんですよね。誰のなんの課題をどれだけのスピード感で解決していくかが本質で、DXやデジタルは課題解決のための手段だと僕は考えています。もしかしたら、アナログのほうがいい局面があるかもしれない。
DXやデジタルを使うことで、課題解決のスピード感はだいぶ違ってくると思うんですよね。でも見失ってはいけないのは、「誰の何の課題を解決するか」で、それを定義するのがプロダクトマネージャーなんです。
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今回岡田さんのお話を伺い、求人企業・求職者で成り立つ人事・就職・転職という世界だからこそ、それぞれの解決したい課題や体験に徹底的に寄り添い、向き合い、その上でデジタルの活用を進められていることが印象的でした。
同じ人材業界に身を置くものとして、とても共感しましたし、刺激をいただきました!岡田さん、ありがとうございました!
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エン・ジャパン株式会社 デジタルプロダクト開発本部 部長 岡田康豊
ゲーム会社、Web制作会社など、4社にてデザイナー、ディレクターの経験を積み、2012年にエン・ジャパンに中途入社。プロダクトマネージャーとして数々のサイト運用と立ち上げを経験する。現在は『エン転職』のサイト責任者を務めながら、エン・ジャパンの全てのプロダクトの運用を手がける「プロダクト企画開発部」の部長としてマネジメントも手がけている。
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