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アボカドのビシソワーズ

そう言えば、アボカドが日本でメジャーになったのはいつ頃の話であっただろうか。

アボカド。クスノキ科に属する南米産の植物で、暗緑色の外皮に包まれた雫型の実をつける。和名は【鰐梨】(わになし)。熟した果実は包丁を入れるとすいすいと切れ、中にはピンポン玉よりやや小さい位の丸い種が入っている。黄色みがかった緑色の果肉は脂質に富みかなりねっとりとした食感で甘みは殆ど無い。その性質から【森のバター】とも呼ばれる。

このアボカドの実、現代では食資源として利用する動物が人間以外にほぼ存在しないらしい。もっと言えば、アボカドの植物体は一部の動物には死に至る猛毒として作用する。つまりそれはアボカドが動物を【キャリー(種子運搬者)】として利用出来ない事をも意味する。良く絶滅しなかったものだ…と思わざるを得ないが、近年面白い研究結果が明らかになった。
恐竜絶滅後の南米は、他大陸とは系統が異なる動物による独自の生態系が展開されていた。その生態系の中で大型植物食動物の生態的地位を一手に担っていたのが、ゾウ程も大きい地上棲のナマケモノだった。
彼らは地上にある様々な植物を食べていたが、そのメニューの中にアボカドが含まれていたと言うのである。
アボカドの実は地上棲ナマケモノが丸呑みし、種を糞と共に排泄するのにうってつけのサイズなのだそうだ。現存する樹上性のナマケモノはケクロピア等、他の動物が食べない植物を餌とし、数日がかりで消化する事で知られる。地上棲ナマケモノも似たような感じでアボカドの毒に対する解毒法(巨体に収まった消化器官でゆっくり分解する…等)を駆使して、アボカドを独占していたのかも知れない。
そして地上棲ナマケモノが絶滅した後、何の偶然か人間がアボカドを利用し、その命脈を保つ存在となった。
もしも、アボカドが人間に食資源として利用されていなかったら、アボカドは地上から姿を消していたかも知れない。

そんなアボカドの賞味法だが、甘みが乏しく脂質に富む事からか、矢張り普通の果実らしからぬ利用のされ方をする事が多い。日本ではスライスして醤油を少しだけ垂らして食べられたりする。メキシコでは果肉をディップしたもの(【ワカモーレ】と呼ばれる)をタコスの添え物にしたりする。アメリカ式の巻き寿司【カリフォルニアロール】には具材のひとつとしてアボカドが使われる。近頃ではサンドイッチの具材としても用いられる。

そんなアボカドの賞味法の中で、ワタクシが嘗て良く作ったのがビシソワーズ(冷製ポタージュ)である。
アボカドを使ったビシソワーズの存在を知る切っ掛けになったのは開高健先生の名随筆【オーパ!】を読んでの事だった。同著がリリースされた時、日本ではまだアボカドはメジャーでは無かったかと思う。その為かどうかは知らないが、アボカドのビシソワーズは日本ではあまり知名度が高くないような気がする。実際ワタクシも作ってmixiで味の感想を述べたら、マイミクの大多数が料理の存在すら知らないと言う状態だった。

折角なのでレシピを記載しよう。尚、下記はワタクシがあれこれ調べた末に見つけた自分好みの内容なので、調味料の比率等は作る方が各自お好みで調整して欲しい。因みに二人前の分量である。アボカドは果皮が黒に近い緑に追熟したものを選ぶ事(でないと青臭みが出る)。尚、ジャガイモで作る【本家】ビシソワーズは加熱してから冷まして食卓に供すが、アボカドのビシソワーズでは必ずしも加熱の必要は無い。チキンブイヨンも、出来れば混ぜる前に冷まして置くのをオススメする。

●完熟アボカド 1/2個
●チキンブイヨン 適宜
●生クリーム 1パック(植物質由来ではないもの)
●塩 微量
●胡椒 微量

1、完熟アボカドは半分に割って種を除き、スプーンで果肉をこそげ落として、細かく刻んで裏漉しする。

2、1をチキンブイヨンで滑らかになるまで伸ばす。

3、2に泡立てていない生クリームを混ぜる。

4、塩と胡椒で味を整えて、食べる直前まで冷蔵庫で冷やし、器に盛る。

※お好みでパセリかクルトンを散らすと彩りがあって良いです
※生クリームを牛乳に変えてもお楽しみ頂けます

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