創作落語 『春眠』

枕   えぇ~最近は少しづつ暖かい日も多くなってまいりました。とは言ってもまだまだ、寒い日もあります。昨日はポカポカしてたのに、今日は震えが出るほど寒い。一枚羽織ってくかぁ、なんて、外に出ると昼頃には暑く成る。温度調整が中々難しい季節になってまいりました。朝晩の冷え込みと、昼の陽気。中々間が取れないものでございます。
しかしまぁ、なんといってもこの陽気、冬の間はブルブルと震えて縮こまった体が、グーっとほぐされていくような、何とも気持ちの良いことでございます。しかしまぁ、弊害としてはあまりに気持ち良すぎて、うつらうつらとしてしまう。日中に座って事務作業なんかしてたらもう、こっくりこっくり、自分の首の揺れで目が覚めて、またしばらくするとガクッと首が落ちちまう。これじゃァいけねぇってんで、立ったり座ったり、全然仕事が進まない。
春眠暁を覚えず。とはよく言ったものでございます。

番頭  『ちょいと佐吉さん!起きなさい!』

番頭に怒鳴り起こされたのは手代の佐吉。手代とは普段はお得意様回りや、集金など、外回りの仕事が多いのだが、今日はぽっかりと予定が空いてしまい、じゃぁこの機会にと、番頭の仕事を仕込んでいる最中であった。今で言う事務仕事みたいなものです。

佐吉 『ば、番頭さん、いや、どうにもこうにもこの春の陽気っていう奴は眠気を誘ってきますね。』
番頭 『馬鹿言ってんじゃないよ。こんな好機は中々ないんだ。しっかり勉強して、お前も早く番頭に・・・ってこりゃいけねぇや・・・』
佐吉 『どうしたんです?』
番頭 『お前が番頭になったら俺の仕事がなくなっちまう。』
佐吉 『ありゃ、そりゃ大変だ。』
番頭 『どうしよう。』
佐吉 『どうしましょうかねぇ。』
番頭 『旦那様はなんだってお前さんに番頭の仕事なんか教えろなんて言ったんだろう?』
佐吉 『番頭さんクビですか?』
番頭 『クビってのは・・』
佐吉 『お暇をいただく・・・』
番頭 『今だって大分暇なんだ。これ以上暇をふやしたかぁねぇや。』
佐吉 『やばいんじゃねぇですか?』
番頭 『やばいなぁ。・・・・おい、佐吉。その作業覚えるな。』
佐吉 『覚えるなって言われてもこれまた、覚えないとあたしが旦那様におこられちまいますよ』
番頭 『そこなんだよ。馬鹿野郎。俺は旦那様直々にお前に仕事を教えろと言われたんだ。』
佐吉 『まったくあたしが覚えてないのも番頭さんも叱られますよね?』
番頭 『そうだなこん畜生!』
佐吉 『番頭さん・・』
番頭 『なんだコノヤロー』
佐吉 『さっきから無駄に口が悪いですよ。』
番頭 『そうだな。多分気が動転してやがる。』
佐吉 『でも、番頭さんは毎日毎日しっかりお仕事されていますよ。』
番頭 『なんだ急に。褒めて俺の立場を乗っ取ろうってのか?コノヤロー』
佐吉 『番頭さん、もう、あなたの人格が別の人のようだ』
番頭 『がるるるる・・・』
佐吉 『うなってる場合じゃないでしょ。あたしはあなたをクビにする理由が見当たらないっていってるんですよ。』
番頭 『・・・まぁそうだな・・特に失敗が多いわけでもねぇ。俺ゃ、毎日この仕事を真剣にやってきたんだ。』
佐吉 『そうでしょう。旦那様だってそんな御仁を無碍に切ることはしないと思いますよ。』
番頭 『考えすぎか?』
佐吉 『そうですよ・・・ふぁぁあ・・・また眠くなってきちまいました。』

佐吉がうつらうつらとしだした所に旦那が入ってくる。

旦那 『番頭、しっかりおしえてるかね?』
番頭 『へい・・しかしこいつぁ・・』
旦那 『なんだい?眠ってるじゃねぇか・・』
番頭 『こいつは仕事どころか、暁も覚えられねぇとんでもねぇ野郎でございます。』


AKR創作落語
『春眠』でございました。

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