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デスクレスワーカー向けSaaS急成長の裏側:現場の地殻変動を起こしたモバイル端末普及の実態

AIじゃなくてモバイル革命の話を書きます。なぜ2024年にそんな話をするのかというと、いままさに、その波が現場に届いてるからです。
製造、建設、物流、飲食などを中心とするデスクレスワーカー産業で、現場業務に直球勝負のSaaSスタートアップが近年大きく増えました。本記事では、コロナ禍とDXが社会構造に与えた影響が、現場に周回遅れの、しかし(AI含めて)全ての土台となるモバイル端末の普及をもたらしたことを解説します。

貴山敬 (@tkiyama)


「デスクレスワーカー」とは

「デスクレスワーカー」とは、製造/建設/物流/飲食/小売/サービス/宿泊などの、デスクを持たないスタッフが働く産業のことで、いわゆる「現場」です。英語では ”Deskless Workforce”、日本ではノンデスクワーカーと呼ばれることも多いです。

デスクレスワーカー向けSaaSスタートアップの急増

アナログな業務プロセスが色濃く残るデスクレスワーカー向けのSaaSスタートアップは、SaaSの隆盛とともに、2020年のコロナ禍の翌年ぐらいから増え始め、2024年に入ってさらに急増した感覚があります。

実際、One Capital社がまとめた業界特化型のSaaSプロダクトの件数と資金調達額を見ると、2023年→2024年で大きく伸びていることがわかります。

最新版「バーティカルSaaS カオスマップ」を公開 -農業などでプレイヤー増加、物流領域への資金流入・成熟化が進む- | One Capital, Inc

デスクレスワーカー産業でDXが進まなかった理由は現場の特性

そもそも、なぜデスクレスワーカー産業でDXは進んでこなかったのでしょうか。弊社のお客様とお話していても、「うちのシステムはすごく古いから」というご意見をよく聞きますし、現場訪問すると懐かしのMS-DOSっぽい黒背景の画面が目につきます。確かに古いレガシーシステムが温存されてる。ものすごく。

DXとはつまるところIT投資なのですが、アメリカのEmergence Capital社が発表した資料によると、デスクレスワーカーが世界の労働者の8割を占めるのに、IT投資全体のわずか1%しか振り向けられていないという数字があります。2018年に発表されたものですが、実感値としてもその通りでした。

Emergence Capital社の発表資料をもとに弊社作成

ではなぜIT投資が進まなかったのか。これまで数多の現場を見てきた経験から浮かび上がったインサイトは、「Wi-Fi接続したパソコンを置けなかったから」という単純だからこそとても強力な理由です

ソフトウェアの入力/出力にはデジタル端末が必要で、現場のオペレーションは現場で日々変わります。だから、現場にパソコンがないと業務でソフトウェアを使いこなせない。ところが、狭いところでヒトモノ機械が動くし、暑いし寒いし濡れてるし、粉舞ってたりするし、耐震壁がWi-Fiを通さない。つまり、現場にパソコンが置けないのです。

弊社作成資料

モバイル端末普及の第一波と第二波

この状況をがらっと変えたのがモバイル端末の登場です。ネットワーク接続されたデジタル端末が現場に配備され、そこを起点にDXが進むことになります。

ところが、現場はそんなに簡単には変わらない。iPhone/iPadはもちろん、安価なAndroidが発売されてもうだいぶたちますが、状況が変わるには強いショックが必要でした。

まず最初の波がコロナ禍。私がTebiki社を創業した2018年当時、Zoomは全く普及してなくて「現場に来てください」が当たり前だったし、ブラウザはIEが標準だったし、クラウド禁止の大企業が多かった。この状況を文字通り一夜で変えたのがコロナ禍です。

工場への社内出張も本社会議も禁止され、とにかくいろんなことをリモートで管理する必要が出て、モバイル端末配備とクラウド解禁、さらに社内のITリテラシー教育がとてつもない速度で進んだのです。

コロナ禍が起きた瞬間、起業してまだ2年もたっていなかった私は事業閉鎖を覚悟しました。ところが、蓋をあけてみたら多くのSaaSにとって強烈な追い風。DXの扉が開き、さらにZoomで営業とカスタマーサクセスのコストが劇的に下がったのです。
(ちなみに先行き不透明な空気感をもろともせずに発令したばかりの緊急事態宣言下で弊社への投資を決めたのがグロービス・キャピタル・パートナーズ社でした。)

この流れは、2023年後半頃の「DXという流行り」でさらに加速します。マスコミ(と我々SaaS企業)が「DX!」と連呼しまくったおかげで、顧客のIT予算、中でも一番わかりやすいモバイル端末予算が増え、これまで通らなかったデバイス購入稟議が次々と通るようになりました。
弊社は「現場でモバイル端末を使ってtebikiを使いましょう」とご提案しているので、導入支援対象の現場でのモバイル端末の保有状況をよく把握しています。そこで、弊社のお客様で2023年に端末配備を増やした現場、もしくは2024年に増やす計画があると回答した現場を調査したところ、8割を超えていました。確かに端末配備は進んでいた。

弊社作成資料

現場のモバイル革命はまさに今

初代iPhoneが登場したのは2007年。そこから14年の歳月を経て、ついに現場でソフトウェア投資できる環境が整いました。

安価なAndroid端末が登場し、オンプレしか認めなかった本社の情シスと法務がクラウドを許可し、プライベートで使いこなすから現場スタッフのモバイルリテラシーが向上し、在庫管理などの基本ソフトウェアがモバイル端末で動くようになって、経理部門が現場の十分な台数のモバイル端末を必要経費とみなす、、、ここまでくるのに14年の月日が必要でした。世界は一瞬では変わらない。でもあちこちで変化は少しずつ進んでいて、気づいたらコロナ禍とDXで大きなうねりとなっていたのです。

さいごに

スタートアップの成功ストーリーは、創業者の原点やチーム、大胆なファイナンスなど華やかな側面が語られ、その裏にある地味なマクロ構造変化にスポットライトが当たることは普段ありません。しかし、スタートアップが成功する前提条件は、変化を捉えた市場選択と参入タイミングです。飛躍するスタートアップには必ずこれがある。

iPhone登場以降、スマホは世界のすべてを変え、多くの巨大なスタートアップが生まれました。だいぶ(というかかなり)遅れましたが、現場のモバイル革命はいままさに。AI活用の前にまず学習データのデジタル化。このマクロの大波に弊社は乗っています。

Tebiki社では一緒に働く仲間を募集してます!

製造業や物流業、サービス業などの『現場』が我々のお客様です。生産人口の減少、そして下がり続ける生産性という日本の根本課題に正面から取り組み、現場統合プラットフォームというコンセプトのもとに、動画技術を駆使した『tebiki 現場教育』と、製造記録の自動分析を担う『tebiki 現場分析』という2つの事業(SaaS)を展開しています。

オールポジションで絶賛採用してますので、自分の力で事業をつくって現場の未来を変えたい人、一緒にやりましょう!!


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