甦るフランク・ロイド・ライト(25)Guggenheim Museum 3
Solomon R. Guggenheim Museum
これまでに「空間の連続性」と「構造の造形性」について、ご説明をした。
今回は、これら「空間」と「造形」を如何に「光」で包み込んだか、ご紹介する。
今回のテーマは「光」じゃ。
光の在り方
「光」は、建築の重要なテーマの一つである。
建築家によって、その位置づけは異なる。
私とコルビュジエとカーンの光について、下図で説明しよう。
私の光に対する扱いは、生涯一貫している。
光が、空間に満ちることを望む。
そして、光満ちるために影を嫌った。
影は、空間の連続性を殺す。
光の粒に満ちた空間は、その連続性を強調する。
そして相変わらず、私とコルビュジエとの対比は鮮やかである。
影を避けるために、まず壁を嫌った。
大きな壁に窓を空けると、影が生じる。
面同士の隙間から外光を流し込む必要があった。
流れ込んだ光の粒は一様に近くのサーフェイスを発光させた。
私は、空間を実体的存在として扱ったが、
光についても同様に実体的であった。
影を排除する光の取り入れ方は4パタンある。
A. 面の隙間から光を滑り込ませる
B. 面に光をバウンドさせる
C. 拡散光を取り入れる
D. 小さな孔から光が滲み出る
の4パタンである。
B、C、Dは共通して、直接光を弱める手法だ。光を弱めると、直進するエネルギーが減り、光が回析するので、影は消えていく。柔らかい光は、物体を包み込むことができる。
要は、間接光のみで、部屋の照度を確保したかったのだ。影を排除するために、室全体の照度すら下げた。私の作品がうす暗い印象をもたれるのは、これが理由じゃ。
グッゲンハイム美術館では、AとCを用いた。
次節から、どのように具体的に光を取り入れたか解説する。
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ハイサイドライト
さて、グッゲンハイムの内部へ、どのように光を取り込むか。極力、影をつくりたくない。
狙いべき場所は、面同士の隙間である。
螺旋の隙間(ハイサイドライト)と渦の頂部(トップライト)から、光を取り入れることにした。
建物内部への光の取り入れ方は、ジョンソンワックス社での手法を参考に進められた。
初期のハイサイドライトの検討図をみても、ジョンソンワックスの断面と同様じゃ。
コストの関係で、ガラスチューブは、板ガラスに変更した。
美術館は絵画を鑑賞するための空間である。
その空間で忌むべきものは何か。
この場合も、影が忌むべきものだ。まず絵画に影を落とすのはNGだ。
そのため、板ガラスの角度はもちろん、絵画を設置する壁面の角度も入念に検討した。
入念に断面検討した、ハイサイドライトは、木の枝葉から漏れるような柔らかい光を、展示回廊にもたらせた。太陽の動きに合わせて、うつろに光が変化する空間となった。
この光の変化に合わせて、美術品や人々は彷徨い、空間は、時と共に成長していく。
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トップライト
次にトップライトの説明をする。
検討初期のトップライトは、ジョンソンワックス社のトップライトと同じ形式だった。泡の集合体のようなトップライトだ。
しかし、グッゲンハイムのトップライトは、直径19mほどあり、泡構造を成立させることは不可能なことがわかった。
そこで、私は円形を12分割するウェブ・ウォールを天へ伸ばし、ゴシック建築のバラ窓のようなトップライトとすることにした。
ゴシック建築のデザインは、生命賛歌のデザインであり、有機的建築のルーツでもあることから、相性は良かった。
ゴシックの研究により、グッゲンハイム内部へ、生命の光を注ぐために、ふさわしいトップライトが完成した。
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拝啓、コーリン・ロー様
今回、私の「光」の扱い方を解説した。
せっかくなので余談として「透明性」について触れたい。
コーリン・ロー(1920-1999)は、建築史家であり、近代建築における空間の特性を明快に示した。
『マニエリスムと近代建築 コーリン・ロウ建築論選集』(1976)の中で、「透明性」について、2種類(実・虚)あると定義した。下図で整理した。
実の透明性=ガラスの透明性であり、虚の透明性=空間の重なり(奥行)である。
コーリン・ロウは、コルビジュエの建築に、虚の透明性を見出した。
『マニエリスムと近代建築』の中で、実の透明性より、虚の透明性の方が優勢に扱われる。
ただ、虚の透明性に、視覚的な美しさは生み出すが、人間の触覚に働きかけない。
目と頭にのみ刺激を与えるのみである。
私の空間と光は、実体的性質を伴っている。
つまり、実の透明性の名手(魔術師?)なのだ。
(奥行きの扱いにも長けているが、ここでは説明のため省く。)
実の透明性=ガラスの透明性と捨て置くのは、短絡的すぎる。ガラスの種類、その先のサーフェイスの在り方など、実の透明性は、まだまだ可能性を秘めている。
序盤で説明した間接光の操作が、まさにそれだ。
実体的な光の操作は、人間の五感に直接に響く。
今一度、古臭いと思われがちな実体的な光を注意深く観察し、光響く空間を創造していってほしいのじゃ。