見出し画像

甦るフランク・ロイド・ライト(15)Hanna邸

<あらすじ>
65年の時を経て、フランク・ロイド・ライトが、もし現代に甦ったら何を語るか、というエッセイ集です。今回(第15話)は、ハンナ・ハニカムハウスを解説してもらいます。

ハンナ邸 Hanna–Honeycomb House

Hanna–Honeycomb House
Frank Lloyd Wright
1937 Stanford, California

前回、ジェイコブス邸により、私の住宅は、一気に進化した。しかし、低予算にしすぎて、芸術ポイントも限界まで絞ってしまった。私のデザインは、予算を積まれれば、もっとすごい。
今回は、初期ユーソニアン住宅の芸術的側面が爆発しているハンナ邸をご紹介したい。

Hanna–Honeycomb House / Plan
Frank Lloyd Wright
ハンナ邸 平面図
六角形グリッドで計画され、
敷地の傾斜にあわせて増殖し続けた

なぜ六角形なのか

ハンナ邸は別名、ハニカムハウスと呼ばれている。平面グリッドが、六角形でハニカム形状だからだ。ハチの巣みたいじゃ。
なぜ、六角形を採用したか、ご説明しよう。

箱の解体 / 空間の解放

私は、箱を好まない
箱の中では、息が詰まって窒息する。箱は、空間を殺し、その死んだ匂いがする。
生きられた空間のために、箱を消すことが、私の建築のテーマの一つだった。
箱の解体のために、まず隅柱を疑った。(上図)
彼らがエッジを強調し、箱を箱たらしめている。
邪魔でしかない。私はキャンチレバーを導入し、隅柱を取っ払った。隅柱を排除した途端、空間が呼吸し、正気を取り戻した。
これが箱の解体がスタートだ。当初、隅柱があったキャンチレバーの下には、オープンスペースが生じ、空間がみるみる脱走し始めた。

・・・

私の箱の解体への探求は止まらない。
さらなる空間の解放を目指して、グリッドの開発を進めた。私は幾何学の魔術師だ。

箱の印象を壊すため、新たに考案されたグリッドたち

やはり正方形グリッドが良くない。直角が隅柱と同様に、箱感を増長させる。
均質な箱を生成する悪きものだ。
脱箱型のために、私は、直交グリッドを疑った。その際、登場したのが、六角形グリッド(ハニカムプラン)だった。

San Marcos water gardens for Alexander Chandler
Frank Lloyd Wright
1929 Chandler, Arizona

この砂漠のキャンプ(上図)が六角形の初出しであったが、1929年の株式市場の暴落のため、実現はしなかった。私の不遇の時代だ。

ハンナ邸が、ハニカムプランの最初の実現作になる。(下図)このような挑戦的な平面計画を承諾したハンナ夫妻に感謝したい。ハンナ邸の平面には、箱を想起させる直角などない。
ジェイコブス邸より複雑だが、100坪37,000ドル(インフレ後784,194ドル)なので、現代における坪単価117万円程度にまとまった。

Hanna–Honeycomb House / Plan
Frank Lloyd Wright
ハンナ邸 外観透視図  平面図
Hanna–Honeycomb House / Inteiror
Frank Lloyd Wright
ハンナ邸 内観

ハニカムプランは、空間の流動化を促す。箱の存在感は消え、空間のつながりが強調される。
空間同士が、泡のようにぷくぷくつながり出す。
箱と人間という古き悪しき関係を脱し、新たなる空間と人間の関係が明らかになった。

ハニカムプランは、ハンナ邸後しばらく続ける。
その後、正三角形や、正三角形を2つ組み合わせた菱形に進化する。ディテールを最適化できた、菱形平面が作品数としては一番多いが、晩年には六芒星平面にもトライした。(下図たち)

Sidney Bazett House
Frank Lloyd Wright
1939 Hillsborough, California
ハンナ夫妻の知り合いの同じハニカムハウス
Auldbrass Plantation
Frank Lloyd Wright
1941 Yemassee, South Carolina
ハンナ邸の同時期のハニカムプラン作品
Mrs. Clinton Walker House
Frank Lloyd Wright
1951 Carmel-by-the-Sea, California
外形は六角形だが、この頃には、
より合理化された菱形平面が採用される
Kentuck Knob
Frank Lloyd Wright
1953 Uniontown, Pennsylvania
こちらの平面は六芒星 ハニカムプランの集大成

ディテールの開発

ハニカムプランを構想したのは良いが、構法を最適化したジェィコブス邸と違って、ハンナ邸の建設には困難を極めた。現場の施工者たちは、我々の図面を見て途方にくれた。彼らは直角の取り合いしか作ったことがなかった。それでは箱の解体は進まない。
そのため、全ての取り合いの詳細を図面化する必要があった。
しかし、この経験が後に生きてくる。
ハンナ邸以降、60・120度の取り合いを連発するのだが、ハンナ邸で詳細図を作成したことにより、どんな納まりにも対応可能になった。

ハニカムプラン用に作成した、標準詳細図
建て方1
建て方2

屋根の修辞

ハンナ邸のハニカムプランの第一の目的は、箱の解体にある。内部空間の解放だ。箱が遮る空間の響きを自然へ開放することだ。隅柱を無くし、キャンチレバーで、屋根を空に向かって跳ね出した。

その副産物として、屋根もより自由になった。
壁の存在感が薄まることにより、屋根の意義が高まった。今まで内部の人間を護るのみの機能が、環境をも優しく包み込めるようになった。
ハンナ邸の敷地は、敷地内に高低差があり、屋根も小刻みに分節しながら適応した。
屋根同士は、木の葉のように軽やかに重なる。
大地と屋根の良好な関係が、箱を解体することにより、達成された。

箱の解体は、私の作品で見出すことができる共通のテーマだ。現代でも言及され続けているテーマだ。私の作品を見返す時、気にしてくれたら幸いじゃ。

ハンナ邸俯瞰写真
村野藤吾の佳水園に似ておる
日本の料亭の雰囲気を醸し出す
箱の解体を進めると、日本建築に近づいた
大地と屋根と空間の良好な関係

・・・

ハンナ邸で、住宅での箱の解体をご説明した。
次回は、スケールを上げた箱の解体を実践したJohnson Wax社屋を予定しておる!

Johnson Wax Headquarters
Frank Lloyd Wright
1936–39


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集